第2章

有栖川礼希視点

昨夜の発見が、私を夜明けまで眠らせてくれなかった。

ベッドの中で、私は何度もあの絵画を思い返していた――六年間、成宮涼は私の絵を描き続けていたのだ。誕生日、節目となる出来事、彼が立ち会えなかった一つ一つの瞬間が、彼の筆によって捉えられていた。「彼女のいない2187日目」というあの言葉は、私の記憶に焼き付いている。

彼も私のことを考えてくれていたんだ。私がずっと彼のことを思っていたのと同じように。

翌朝十時。私はわざと少し寝坊して、涼が先にリビングにいる時間を見計らって階下へ降りた。

キッチンにはコーヒーと、江奈さん特製のフレンチトーストの香りが漂っていた。彼女の銀色の髪が、朝日を浴びてきらめいている。成宮涼はコーヒーメーカーの前で私に背を向けて立っており、白いTシャツ越しにも、広い肩幅がよくわかった。

「おはよう、礼希」

江奈さんが私に気づいて振り返り、その温かい笑顔で顔を輝かせた。

「よく眠れた?」

「ええ、ぐっすり」

私は嘘をついた。視線は成宮涼の背中に注がれたままだ。彼の肩が目に見えてこわばったが、振り返ろうとはしない。

江奈さんはその緊張感を察し、わずかに眉をひそめた。

「涼、おはようって言わないの?」

彼はコーヒーマグを握りしめ、ゆっくりと振り返った。けれど、慎重に視線を合わせようとはしない。

「おはよう、礼希」

「おはよう」

私はわざと彼に近づき、通りすがりに腕をかすめた。彼はまるで感電したかのように固まった。

江奈さんはすぐにその妙な空気に気づき、フライ返しを置いた。

「そうだ、いいこと思いついたわ。涼、礼希ちゃんに絵の基本を教えてあげてくれない?この子もアートに興味があるみたいだし、ここの芸術的な環境に馴染む助けになると思うの」

成宮涼はコーヒーマグを落としそうになった。

「俺は教えるの、うまくないから、教室に通えば……」

「馬鹿なこと言わないで。あなたは私が知る中で一番才能のある画家よ」

江奈さんは有無を言わせない口調で彼の言葉を遮った。

「これは家族としての責任よ、涼。礼希ちゃんがここでくつろげるようにしてあげないと」

私はこのチャンスを逃さず、とびきり無邪気な表情を作ってみせた。

「涼の絵、ぜひ教わりたい。昨日アトリエを見た――信じられないくらい才能豊かで」

成宮涼の目がようやく私を捉えたが、すぐに火傷でもしたかのように逸らされた。

「俺は……」

彼の声がかすれた。

「決まりね」

江奈さんはぱんと両手を合わせた。

「今日の午後から始めなさい。私は画材を買いに出かけてくるから、二人で静かに作業できるわ」

成宮涼は逃げ出したそうだったが、江奈さんの強い態度に逃げ場はなかった。ついに、彼は渋々頷いた。

「……わかった。二時に」

彼の声はかろうじて聞き取れるほど小さかった。


午後二時きっかりに、私はアトリエのドアの前に立った。

いつもより胸元の開いた、薄いピンクのキャミソールに白いプリーツスカート。あからさまではないけれど、彼の気を散らすには十分な服装をわざと選んだのだ。

成宮涼はすでに待っていて、私のために新しいイーゼルに真っ白なキャンバスを設置してくれていた。天窓から太陽光が差し込み、アトリエ全体を黄金色に染めている。

「基本から始める」

彼の声は硬かった。

「まずは筆の持ち方だ」

彼は私に絵筆を手渡した。受け取る際に指が触れ合うように仕向けると、彼はびくりと震え、筆を落としそうになった。

「こうやって持つんだ……」

彼は距離を保ったまま、手本を見せ始めた。

「よく見えない」

私は嘘をついた。

「もっと近くに来てくれないか?」

成宮涼は一瞬ためらったが、やがて私の隣に立った。彼の体温と、微かな絵の具の匂いに包まれる――緊張した彼の息遣いまで感じられた。

「手首の力を抜いて……こう……」

かすれた声で言いながら、彼が私の筆の持ち方を直そうと手を伸ばす。

彼の大きな手が私の手を覆った瞬間、彼が震えているのがわかった。何年も絵を描き続けてきた、たこだらけの大きな手。温かい。私はわざと呼吸を乱してみせた。

「手が震えてるよ、涼」

私はそっと呟き、彼を見上げた。

顔がすぐそこにあって、彼の瞳に宿る苦痛と渇望が見て取れた。瞳孔が開き、呼吸が速くなっていく。

「悪い、水を飲む」

彼はパッと手を引くと、ほとんど逃げるようにして隅にあるシンクへ向かった。

思った通り。彼は自分と戦っている。昨夜の発見は、まさに的を射ていた。

絵に集中するふりをしながら、私はこっそりと彼の様子を窺った。成宮涼は私に背を向け、シンクの縁に両手をつき、深い呼吸で肩を上下させていた。まるで自分自身と戦っているかのようだった。

「涼?」

私はわざとイーゼルの角度を直すために身をかがめ、キャミソールの胸元が少しだけ開くようにした。

「この色で合ってるか?」

彼が振り返った瞬間、その視線が意図せず私の胸元をかすめ、すぐに逸らされた。首筋がじわりと赤く染まっていく。

「あ……ああ、それで完璧だ」

彼はどもった。

それからの一時間、私はそんな些細な挑発を続けた。髪が顔にかかるままにして彼に払いのけさせたり、指示を受けるときにわざと体を密着させたり、彼の助けが必要になるような小さな「事故」を起こしたりした。

そのたびに成宮涼は神経質に後ずさるけれど、彼の瞳は内に燃える欲望を隠しきれていなかった。

しばらくして、成宮涼は絵の具を買い足す必要があると言った。

「基本的なストロークの練習を続けてろ。すぐ戻る」

彼は鍵を掴むと、明らかにこの空間から逃げ出したくてたまらない様子で出ていった。


午後十一時、成宮涼の部屋から水音が聞こえてきた。シャワーの音だ。

私は絵筆を数本口実に掴むと、彼の寝室へと忍び寄った。ドアはわずかに開いていた――私は、人が一人やっと通れるくらいの隙間を、そっと押し開けた。

寝室はミニマルな内装で、壁には抽象画がいくつか飾られていた。ナイトスタンドの上、読書灯の隣に、黒い革の日記帳が置かれていた。

心臓が大きく跳ね、あばらを内側から叩くような衝撃が走った。

浴室からはまだ水音がしている。私は素早くナイトスタンドに移動し、日記帳を開いた。

最新のページに書かれた内容に、私は息を呑んだ。

【2188日目。礼希が帰ってきた。だが、俺は……。もう兄ではない。それでも、彼女を傷つけるわけにはいかない。今日、絵を教えていて、理性を失いかけた。唇がすぐそこにあって、……キスしかけた。……違う。母さんが、倉持先生の娘さんとの見合いを勧めてくれた。気を紛らわすには、その方がいいのかもしれない。だが、礼希が絵に集中する横顔を見ていると、誰にも彼女の代わりはできないとわかる。彼女こそが俺の唯一のミューズであり、最大の苦悩そのものだ。】

倉持先生の娘?お見合いってこと?

ダメだよ、涼。あなたの注意を逸らすための誰かなんて必要ない。あなたに必要な人は、すぐここにいるのに。

突然、水音が止んだ。

私はバタンと日記帳を閉じ、筆を掴んで部屋から飛び出した。心臓が破裂しそうなくらい速く脈打っていた。自分の部屋に戻ると、ドアに寄りかかって息を切らした。

絵の具の匂いと創作の熱気が満ちるこのアトリエで、私は成宮涼にわからせるつもりだった――自分を抑えつける必要も、逃げる必要も、ましてや倉持先生の娘なんて必要ないのだと。

彼に必要なものは、ずっと昔から、すぐ隣にあったのだと。

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