第4章

有栖川礼希視点

窓から見ていると、成宮涼がようやく玄関先から動き出し、機械的な足取りで自分の車へと向かうのが見えた。この距離からでも、彼の肩にこもった緊張や、ハンドルを固く握りしめるその手の様子が伝わってくる。

彼は運転席にしばらく座っていた――本当にデートに行く気があるのかと、こちらが疑ってしまうほど長い時間。やがてエンジンがかかり、彼は車を走り去らせた。

いいわ、と私は思った。真っ赤なリップスティックを最後にもう一度塗りながら。倉持先生のお嬢さんが、彼の気をどれだけ惹きつけられるか、見ものね。

しかし、川崎海の車が私道に入ってくるのを見ながらも、あの電話に出たときの成宮涼の顔が、どうしても脳裏から離れなかった。

―――

ギャラリーのモノクロ写真展は、モダンアートの冷たい美しさに満ちていた。

落とされた照明が一つ一つの作品にドラマチックな影を落とし、親密でありながらどこか危険な雰囲気を醸し出している。私と川崎海は人混みを抜けながら進み、彼の手が時折私の腰の低い位置に触れ、作品から作品へと導いてくれた。

「知ってるかい?」

周囲に流れるジャズの音に紛れて、川崎海が私の耳元で囁いた。

「君の義兄さん、実に興味深い人物だ」

私は素知らぬふりをした。

「どういう意味ですか?」

「彼の作品を調べてみたんだ。あるパターンを見つけてね」

川崎海は、ひときわ目を引くポートレートの前で足を止めた。

「彼の絵に出てくる女性――みんな、君の面影がある」

心臓がどきりと跳ねた。

「馬鹿なこと言わないでください」

川崎海はこちらに向き直り、その琥珀色の瞳が薄暗がりの中で危険な光を宿してきらめいた。

「礼希、男が義理の妹に執着するなんて……おかしいと思わないか?」

「執着なんてしてな……」

私は抗議しかけたが、自分自身でさえその言葉を信じていなかった。

川崎海はさらに一歩近づき、ほとんど耳打ちするように言った。

「本当に? なら、どうして彼は俺のアトリエにあんな風に現れたんだ? どうして、まるで君を喰らってしまいたいとでもいうような目つきで君を見るんだ?」

言い返したかった。けれど、今日の成宮涼の表情――あの剥き出しの独占欲と嫉妬に満ちた顔が、脳裏にいくつも蘇る。

川崎海の言う通りだわ。

「さあ、もっと写真を撮ろう」

川崎海は不意にスマートフォンを取り出した。

「この完璧な夜を記録に残さないと」

私は彼の要求の一つ一つに応じ、すべての接触、すべての親密に見えるポーズを受け入れた。彼が、キス寸前の私たちのシルエット写真を投稿したとき、成宮涼がそれを見るだろうと分かっていた。

彼に見せつけてやりたかったのだ。

―――

午後十一時、家のリビングは、テーブルランプ一灯の明かりだけが灯っていた。

床まで届く大きな窓からは月明かりが差し込み、家の中は不気味なほど静まり返っている。成宮涼がまだ戻っていないことは分かっていた。私道に彼の車がなかったから。

デートはそんなに上手くいっているというの?

私はヒールを脱ぎ捨て、裸足でリビングを歩き回っていた。上の階の江奈さんを起こさないよう、一歩一歩に気を配りながら。

十一時半、ヘッドライトの光が窓を横切った。

成宮涼が帰ってきた。

私は急いでソファに戻り、アート雑誌を読んでいるふりをした。玄関のドアに鍵が差し込まれる音に、心臓が速鐘を打つ。

リビングに入ってきた成宮涼は、スーツ姿のままだったが、ネクタイは緩められ、髪も少し乱れていた。

「遅かったな」

彼は声のトーンを抑えていたが、その内に秘めた緊張は伝わってきた。

私はわざと挑発した。

「川崎さんの車が故障してしまって。彼のアトリエでレッカー車を待っていたの」

成宮涼の表情が一瞬で変わった。

「あいつのアトリエだと? 川崎がどんな男か分かっているのか?」

「才能ある写真家でしょう?」

私は肩をすくめた。

「彼からあなたの絵について、いくつか面白い話を聞いたわ……」

「……何を言われた」と成宮涼が問う。

「あなたの絵には、いつも一人の女性しか描かれていないって、涼」

私はソファから立ち上がり、彼に詰め寄った。

「同じ一人の女性が」

成宮涼は黙り込んだ。有罪を宣告するような、永遠に続くかのような沈黙。

「嘘だと言ってよ」

私はさらに追い詰める。

「私に執着なんかしていないって、言って」

その瞬間、彼の内側で何かがぷつりと切れたように、成宮涼は飛びかかるようにして私の手首を掴んだ。

「礼希、君は自分がどんなゲームに手を出しているのか分かっていない」

彼の声は危険な唸り声へと変わり、その瞳には今まで見たことのない光が宿っていた。

「川崎は善人じゃない。あいつには特定のタイプがいる――家庭に問題を抱えた若い女を狙うんだ」

私は衝撃に目を見開いた。

「彼のこと、調べたの?」

成宮涼はさらに一歩近づき、その声は一層危険な響きを帯びた。

「君に近づく奴は、全員調べる。なぜなら……」

彼はそこでふと口を閉ざした。言い過ぎたことに気づいたようだった。

「なぜなら、何?」

私は心臓を激しく鳴らしながら問い詰めた。

「なぜなら、俺は……」

彼は拳をさらに固く握りしめた。

「俺は……」

まさにその時、階段から足音が響いてきた。

「二人して何を言い争っているの?もう遅いわよ……」

江奈さんの声が階段の途中から聞こえてくる。

成宮涼は即座に私の手首を放し、一歩後ろに下がった。

「何でもない。アトリエに行ってくる」

だが、彼が背を向けるその一瞬、私は彼の瞳の中にすべてを見た――独占欲、嫉妬、苦痛、そしてあの絶望的で、すべてを飲み込むような愛を。

なんてこと。

成宮涼は私を愛している――兄としての愛でも、庇護欲でもない。燃え盛るような、禁じられた、抗いがたい、すべてを破壊してしまうほどの愛で。

そして私は、真実を口にすることもできず、苦悶の中で私を愛し続けてきたその男だけを求めていた。

―――

成宮涼視点

レストランのキャンドルの光が、クリスタルのグラスに温かい影を落としていた。

俺は窓際の席に座り、倉持光里に意識を集中させようと努めていた。彼女は、母さんが言っていた通りの女性だった。知的で、美しく、成功している。救急外来でのシフトについて面白い話をしていて、その笑顔は温かく、プロフェッショナルなものだった。

普通の男なら、誰だって心を奪われるだろう。

だが俺は、礼希のことばかり考えていた。

あの黒いドレスを着た彼女の姿。川崎海の電話に出たときの、甘い毒を含んだ声。俺のそばを通り過ぎる際にわざとらしく揺らした腰つきと、いまだに鼻の奥に残る、感覚を惑わす香水の香り。

「さっきからずっとスマートフォンを見ていますね」

倉持光里は話の途中で口を止め、その口調は率直だった。

「誰かからの電話を待っているんですか?」

俺は無理やりスマートフォンをポケットに押し込んだ。

「すみません、仕事のことで」

嘘つきが、と心の中で自らを罵る。お前は彼女を待っている。いつだって、彼女を。

「仕事?」

倉持光里は片眉を上げた。

「その画面に釘付けになるなんて、よほど面白いお仕事なんでしょうね」

まさにその時、スマートフォンが再び震えた。SNSの通知だ。

見るべきじゃない。見るべきじゃないと分かっていた。

だが、俺の指は意思に反して動いていた。

川崎海が新しい写真を投稿していた。

その画像は、まるで鳩尾を殴られたような衝撃を俺に与えた。礼希が黒いギャラリーの壁に寄りかかり、頭を後ろに傾けて、長い首筋を晒している。モノクロのフィルターが、それを芸術的で……そして、親密なものに見せていた。キャプションにはこう書かれている。

「今夜の展示会にぴったりのミューズ」

スマートフォンを握る俺の指の関節が白くなる。レストラン中にそれを叩きつけてやりたい衝動が、どうしようもなく込み上げてきた。

ぴったりのミューズ、だと? ふざけるな。あの男に、俺のミューズである彼女の何が分かる。礼希は、六年間ずっと俺のミューズだったのだ――秘密に、沈黙のうちに、忌々しい苦悶の中で。

「綺麗な人ですね」

俺の思考の渦を、倉持光里の声が断ち切った。

「あなたの彼女さん?」

しまった。画面を見られた。

「いえ、彼女は俺の……義理の妹です」

その言葉が、口の中で灰のような味になった。俺はスマートフォンを伏せたが、もう手遅れだった。

倉持光里はゆっくりとワイングラスを置き、その目を鋭くした。

「義理の妹ですって?でしたら、今のそのお顔は、どう説明なさるおつもり?」

どんな顔つきだ? 愛する女が他の誰かに触れられているのを見ている男の顔か? 少しずつ正気を失っていく男の顔か?

「倉持さん、誤解です……」

「何も誤解なんてしていません」

彼女はハンドバッグを手に取ると、静かに立ち上がった。

「成宮さん、あなたが『義理の妹さん』とどんな複雑な状況にあるのかは知りませんが、私を馬鹿にしないでください」

彼女は荷物をまとめながら、冷たく笑った。

「またデートをする気なら、その前にご家族の問題を解決なさったらどうです?」

彼女が去っていくのを、俺は世界で一番のろくでなしになったような気分で見送った。彼女はもっと良い相手にふさわしい――決して手に入れることのできない相手に心を奪われている男なんかじゃない。

テーブルに一人取り残され、俺はスマートフォンの画面を、川崎海が撮った有栖川礼希の写真を見つめていた。

俺はすべてを台無しにしてしまった。

だがそれ以上に――俺は彼女を失いつつあった。彼女に自由に触れ、写真を撮り、ギャラリーに連れて行き、恥も恐れもなく写真を投稿できる男に、彼女を奪われつつあった。

すべて、俺には決してできないことばかりだった。

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