チャプター 1: 離婚しよう
エマ視点
「エマ、おめでとう! 妊娠してるわ!」
私は口元を押さえたまま、超音波画像に映るぼんやりした影を見つめた。
「デイジー、信じられない……。私、本当に妊娠したのね……」
夫のクラウスはゴールデン・ムーン・ウルフ族のアルファで、彼のルナである私は、狼を持たない人狼だった。
結婚して一年、子どもを授かれないのは自分のせいだと、ずっと責め続けてきた。
またクラウスを失望させるのが怖くて、私は彼には黙ったまま、一人で病院へ検査を受けに来ていた。
「ああ、エマ、本当によかった。あなたにはその資格があるわ」
デイジーは私を抱きしめた。「どれだけあなたが頑張ってきたか、私たちはよく知ってるもの」
私は涙を乱暴にぬぐい、超音波検査の報告書をたたんでポケットにしまった。
「今夜、この素敵な知らせをクラウスに伝えるの。きっとすごく喜んでくれるわ」
病院を出た私は、夫と暮らす家へ戻った。
私は彼の大好物の黒胡椒ステーキと、いくつかの繊細な付け合わせを用意し、ロマネ・コンティを一本開けた。
けれど料理は冷めていき、それでもクラウスは帰ってこなかった。
食卓に座っていると、突然、私のスマートフォンが震えた。差出人不明のメッセージと一枚の写真だった。
写真の中では、私の夫がケーキを切り分けていた。
それなのに、彼は一度だって私と誕生日を祝ってくれたことがない。
メッセージが表示される。
[エマ、あなたの夫は今、私と一緒に私の誕生日を祝ってるの]
[しかも、五百万ドルもする腕時計までくれたわ]
[エマ、私が誰か知りたい? すぐに分かるわ]
全身の血が凍りついた。
クラウスと結婚してからというもの、この女はずっと私に挑発的なメッセージを送りつけてきていた。
クラウスは私を愛していない。私たちの結婚は、祖父の命令で決められたものだった。
結婚初夜、彼は私を抱かなかった。その代わり、この女と酒を飲みに出かけた。
人前で、彼は一度も私を自分のルナだと認めなかった。群れの者たちでさえ、彼が独り身だと思っているほどだった。
私の誕生日にも、クラウスが祝ってくれるのではないかと淡い期待を抱いて待っていたのに、彼は一本の電話を受けると慌ただしく出ていってしまった。
そして私は、この女がバーで彼と踊っている写真を受け取った。
薄暗い照明の下で、二人の身体は親密にぴたりと寄り添っていた。
それでも私は、彼女が何者なのかをクラウスに問いただす勇気がなかった……。自信のなさゆえに、弱さゆえに、恐れゆえに。
クラウスはいつだって私を、価値のない、狼すら持たない出来損ないとして軽蔑していた。自分にはまるでふさわしくない存在だと。
私はこの結婚を壊さないよう、ずっと必死に守ってきた。クラウスに捨てられるのが怖くてたまらなかったから。
けれど、もう違う。今の私は妊娠している。
私は夜十時まで食卓に座ったまま、スマートフォンをきつく握りしめていた。
すると突然、扉が開き、クラウスが入ってきた。
私はいつもの癖で無理に笑みを作り、立ち上がった。「クラウス、あなたに素敵な知らせが――」
その瞬間、強い酒の匂いが鼻を突いた。
クラウスは酔っていた。しかも酒の匂いに混じって、むせ返るほど甘ったるい香水の香りがした。
女物の香水だ。
言葉が喉につかえた。問いただす間もなく、クラウスは私を抱き上げ、そのまま寝室へ運んでいった。
私はとっさにお腹をかばったが、彼はその上から重くのしかかってきた。
「クラウス、やめて……」
だが彼は、理性を失った獣のように、乱暴に私の首筋へ噛みついた。
結婚してからのこの一年、クラウスはあらゆる面で私に冷たかった。ただひとつ、性のことを除いては。そこに限って言えば、彼は異様なほど激しかった。
彼を押しのけようとした。「クラウス、やめて。今日はそんなことをできる体調じゃないの……」
けれど、わたしの抵抗など彼には何の意味もなかった。
ほどなくして、彼の指はもう、きつく閉じた秘所の奥へと滑り込んでいた。
「動くな。そのままじっとしていろ、エマ!」
クラウスの声は命令そのものだった。
彼はアルファだった。彼の命令を、わたしは拒めない。
指は次第に激しさを増しながら、何度も出入りを繰り返す。わたしは抗えず、脚をさらに大きく開いてしまった。
荒い息を漏らすたび、裸の胸が大きく揺れ、波打つ。
彼は片方の胸を強くつかみ、もう片方の乳首に噛みついた。
快楽と痛みが入り混じり、全身を一気に駆け抜けていく。
わたしの体は、少しずつ彼に応え始めていた。
クラウスは、わたしが従順になっていくのを満足げに受け止め、喉の奥で低くうなった。その動きはさらにせわしなく、切迫したものになる。
彼はわたしの片脚をつかみ、そのまま高く持ち上げて肩に載せた。すでに硬くそそり立ったものを、わたしの入口へとあてがう。
「あっ!!」
快感が全身を満たした。どれほど淫らに見えようとかまわなかった。ただ快楽だけが、わたしのすべてを支配していた。
すべてが終わったあと、わたしは恍惚としたまま、クラウスのたくましい腕の中に横たわっていた。
十分ほどすると、彼の酔いもさめたらしく、呼吸は力強く整っていく。
枕の下に隠した超音波検査の報告書を取り出して、妊娠したという吉報を伝えたかった。
けれど、クラウスの表情はすでに冷えきった無関心へと戻っていた。
そして彼は口を開き、わたしの幸福も幻想も、一瞬で打ち砕いた。
「エマ、離婚しよう」
頭の中がぶうんと鳴り、声が震えた。「クラウス、な……何を言っているの?」
「どうして離婚なんてするの? 冗談でしょう。酔ってるのよ、クラウス……」
「エマ、もうすっかりしらふだ」
クラウスは残酷なまでに、わたしの希望を打ち砕く。
「ナンシーのことだ。彼女は銀毒症に侵されている。医者によれば、もって一年もないそうだ」
彼は煙草に火をつけ、目を細めた。
「死ぬ前に俺と結婚して、俺のルナになること。それが彼女のたった一つの願いなんだ」
ナンシー……。
その名前は、銀の短剣のようにわたしの胸を貫いた。
わたしに何度もメッセージを送ってきた女が、誰なのかようやくわかった。
彼女はニュームーン族の姫であり、そしてわたしの夫が関係を持っている相手だった。
わたしが気を取られているのに気づいたのか、クラウスは眉をひそめた。
「エマ、俺の話を聞いているのか?」
わたしは懇願するように彼を見上げた。
「クラウス、どうしても離婚しなきゃいけないの? 彼女が病気なら、群れでいちばん優秀な医者たちに診せればいいでしょう……」
「エマ! 彼女には俺が必要なんだ!」
クラウスはわたしの言葉をさえぎった。
「わかるか? おまえさえいなければ、とっくに彼女が俺のルナになっていた」
「彼女は信じられないほど優しくて、心の底から俺を愛している。俺たちが結婚していたせいで、おまえを傷つけたくないと願っていた。この一年、俺たちのあいだにやましいことは何ひとつなかった」
「俺は彼女に償いたい。なのに彼女はずっと俺を拒み続けている」
「エマ、これ以上、俺におまえを悪意のある女だと思わせるな!」
その目に浮かぶ嫌悪が、深く胸をえぐった。
つまり彼の目には、妻ある男と関わる女こそが優しい女で、
夫を手放したくないと願うわたしのほうが、悪意に満ちた女なのだ。
「でも……」
わたしはうつむき、そっと自分の腹に触れた。
「エマ、おまえは子どもすら宿せない。そんなおまえが、どうして俺のルナでいられる?」
その態度は氷のように冷たかった。
涙が頬を伝い落ち、声が震える。
「もし……わたしが妊娠していたら?」
