第7章:「妊娠していますか?」
エマ視点
私は床に激しく叩きつけられた。
無数のカメラが一斉に私へ向けられ、閃光が目を焼くほどにまぶしかった。
私は反射的にクラウスのほうを見た。
その目は凍りつくほど冷たく、心配も罪悪感もひとかけらもなかった。
彼が何を望んでいるのか、私はわかっていた。
この一件はすべて誤解なのだと、彼はナンシーと浮気なんてしていないのだと、ナンシーは家庭を壊した女などではなく、ただ病気で友人の世話を必要としているだけなのだと――それを記者たちに私の口から言わせたいのだ。
そして私は嫉妬深く、理不尽で、性悪な女だと、公の場で認めさせたいのだ。
そうすれば彼は、何の後ろめたさもなくナンシーと一緒にいられる。
私はゆっくりと立ち上がり、深く息を吸って、静かに口を開いた。
「ナンシーの病気には同情します」
クラウスの表情がわずかに緩み、ナンシーは勝ち誇ったように微笑んだ。
だが次の瞬間、ある記者の質問が、私の気持ちを完全に変えた。
「では、あなたとナンシーさんはご友人なのですか?」
私はクラウスを見て、冷たく笑った。
「どうして家庭を壊した女なんかと友達にならなきゃいけないの?」
その場の空気が一瞬で凍りついた。
クラウスを含め、誰もが信じられないものを見るように私を見つめていた。
私は続けた。
「ナンシーのせいで、私とクラウスは離婚するの」
「エマ!」クラウスは激昂し、顔色を失った。
ナンシーの表情もまた暗く沈んだ。今にも気を失いそうなほど、体が激しく震えていた。
私は爪を掌に食い込ませた。痛みだけが、私の意識をはっきりと保ってくれた。
それから私は全身の力を振り絞り、人混みを押しのけてその場を抜け出した。
*
私は病院から逃げ出し、そのまままっすぐデイジーのマンションへ戻った。
ドアを閉めた瞬間、張りつめていたものが一気に切れ、私はその場に崩れ落ちた。
ポケットの中の携帯が、けたたましく震え始めた。
サリーからだった。
指を震わせながら、私は何度も着信拒否のボタンを押した。
するとすぐに、彼女からのメッセージが画面に表示された。
「ちょっと、エマ、頭おかしいんじゃないの!?」
「よくもクラウスと離婚なんてできたわね!?」
私は彼女にどう説明すればいいのかわからなかった。
サリーは、私とクラウスの結婚生活が危機に瀕していることを、すでに知っていた。
彼女の気性を思えば、きっと大騒ぎになる。
私はただ電源ボタンを押し、彼女と向き合うことから逃げた。
*
その日の夕方、デイジーは疲れ切った体を引きずるようにして部屋へ戻ってきた。
中に入るなり、そのままソファに倒れ込む。
「もう腹が立つ! 病院の前が記者たちで完全にふさがってて、こっちはまともに仕事もできなかったんだから!」
私は彼女に水を一杯注ぎ、隣に腰を下ろした。
デイジーはごくごくと大きく水を飲み干し、それから何かを思い出したように、急に表情を引き締めた。
「あっ、そうだ、エマ。今日の午後、ナンシーがうちの産婦人科に来たの」
胸がどくんと跳ねた。「産婦人科に何しに来たの?」
「あなたのことを探りに来たのよ」デイジーの声は重かった。
「私とあなたの関係は知らないから、ずっと私を脅したり買収しようとしたりして、あなたが妊娠しているのか聞き出そうとしてた」
私は不安のあまり、彼女の手をぎゅっとつかんだ。「何て答えたの?」
「もちろん何も言ってないわ!」デイジーはきっぱりと言った。「でもエマ、あの女、あなたが妊娠してるって勘づいてるみたい」
恐怖が一瞬で全身を呑み込み、息がうまくできなくなった。
私は呟いた。「どうしてナンシーが、私の妊娠を知ってるの……?」
最悪だ。
そのとき私はふいに思い出した。枕の下に隠していた超音波検査の報告書を。
私はすぐに携帯をつかみ、屋敷のメイドに電話をかけた。
「奥様、どのようなご用件でしょうか?」メイドが尋ねた。
「今、私の部屋を使っているのは誰?」震える声で私は聞いた。
「ナンシーお嬢様でございます」メイドは答えた。「アルファ様のご命令で、療養のためあのお部屋へ移られました」
私の心は底へ沈んだ。
「お願い、ひとつ頼まれてくれる? 枕の下に書類を置いていたの。探してもらえる?」
食事を運ぶという口実で、メイドがあの部屋へ向かった。
ほどなくして、彼女は折り返し私に電話をかけてきた。
「申し訳ございません、奥さま。枕の下には何もございませんでした」
通話を切った瞬間、全身から力がすうっと抜け落ちたように感じた。
「エマ、どうしたの?」デイジーが心配そうに私を見つめる。
「あの超音波の検査結果……ナンシーが持っていったの」
デイジーは息をのんだ。「えっ!?」
「クラウスは、まだ私が妊娠しているって知らないはず……」
私は小さくつぶやいた。「ナンシーは私たちを離婚させたい。だから、クラウスに言うはずがない」
それでも、言いようのない胸騒ぎが消えなかった。
私はただ、離婚の日取りが一日でも早く来るよう、黙って祈るしかなかった。
離婚さえしてしまえば、ここを出て、誰にも見つからない場所へ行けるのだから。
*
翌朝、まだ眠っていた私をデイジーが揺り起こした。
「エマ、起きて。外を見て……あれ、クラウスの車じゃない?」
私は跳ね起きて窓へ駆け寄った。
アパートの正面に、クラウスの黒いベントレーが停まっている。
一晩中電源を切っていたスマホを、慌てて入れた。
すると、着信とメッセージの通知が雪崩のように押し寄せてきた。
サリーから、そしてクラウスから。
耳をつんざくような着信音が鳴り、「クラウス」の表示が画面で点滅する。
出るなり、クラウスが怒鳴り散らした。
「なんで出るのがこんなに遅い!? 降りてこい! 今すぐだ!」
私はスマホを握りしめ、長いこと迷った末に、階下へ降りることを決めた。
車のドアを開けた瞬間、クラウスは嘲るように口元をゆがめ、蔑みきった目で私を見た。
「おまえのこと、今までずっと甘く見てた。まさか、こんなに腹黒い女だったとはな」
「昨日、病院にいた記者ども……あれはおまえがわざと呼んだんだろ?」
私は愕然として彼を見つめた。「クラウス、違う。そんなことするわけない!」
「エマ、嘘をつくな!」彼は唸った。「じゃあ誰なんだ!?」
私は冷たく笑った。「知りたいなら、ナンシーに聞いたら?」
その嘲りが、彼の怒りにさらに火をつけた。
手首をつかむ力が恐ろしいほど強い。
「エマ、何度も言っただろ。あいつは病気なんだ。おまえとは違う!」
説明する気力は失せていた。ただ、一刻も早く、この息苦しい車から降りたかった。
「病院でのこと、グレイスにわざと話したのか?」
彼はまた問い詰めた。「それで離婚の決意が変わるとでも思ったか?」
グレイスはクラウスの祖母だった。老キャンベルが亡くなってから、この家で本当に私を気にかけてくれたのは彼女だけだ。
「違う!」私はすぐ否定した。「そんなことでグレイスを煩わせるわけないでしょう」
サリーの顔が浮かぶ。きっと彼女が話したのだ。
クラウスは冷えた声で言った。
「もう一度だけ信じてやる。だが、これが最後だ」
「グレイスが夕食に来いと言ってる。いいか、エマ、余計なことは言うな。口を慎め」
車はそのまま、グレイスの邸宅へと乗り入れた。
中へ入るとすぐ、居間で私たちを待っているグレイスの姿が目に入った。
使用人たちが、豪華な料理をずらりと並べている。
席に着いた途端、脂っこいステーキの匂いが鼻を突いた。
胃の底から強烈な吐き気がせり上がる。
顔色が一瞬で青ざめ、私は必死に口元を押さえた。
「エマ、どうしたの? 顔色がひどいわ」グレイスが心配そうに尋ねる。
私は首を振った。「大丈夫よ、おばあさま。ちょっと気分が悪いだけ」
グレイスは一瞬きょとんとし、それから驚きと期待の入り混じった表情になった。
「エマ……あなた、妊娠しているの?」
その瞬間、クラウスが顔を上げ、私をじっと見据えた。
作者あとがき:クラウスはエマの妊娠の真実に気づくのか? 続きは次回。
