第148章

伊井瀬奈は仲介業者と共に戻り契約を済ませると、手にしたエレベーターのカードキーを見つめながら、心がいくらか晴れるのを感じた。

彼女は本当に第一歩を踏み出したのだ。黒川颯から離れるという、第一歩を。

この三年間は、もう二度と戻らない。

坂本海から電話がかかってきた。彼から連絡が来るのはしばらくぶりで、伊井瀬奈は逸る気持ちで電話に出る。

「坂本海、何か情報があったの?」

坂本海は軽く咳払いをした。「瀬奈さん、あんたの母親の事故を調べている謎の人物は伊井真って名前で、南方の不動産王ですよ」

伊井瀬奈は心臓が跳ねた。伊井真、その名前に聞き覚えがある。すぐに、あの日クルーザーで黒川颯と言い...

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