第268章

羽鳥汐里は恐怖で顔から血の気が引いた。彼の非情さは、薬を飲まされたあの瞬間に骨身に染みていた。だからこそ、彼女はあの夜のうちに逃げ出し、二度と彼の前に姿を現さず、J市の地を踏むことさえ恐れていたのだ。

伊井瀬奈と腹の中にいた二人の子供が死んだ以上、彼が自分を許すはずがないと、彼女は分かっていた。

実の母親が殺されたと知った時でさえ、帰ることさえできなかった。今回ばかりは事情が違い、父が遺した会社の件を処理するためにJ市に戻らざるを得なかったのだ。

あれは両親が生涯をかけて築き上げた血と汗の結晶だ。会社がハイエナのような連中に食い物にされるのを、指をくわえて見ているわけにはいかない。あれ...

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