第287章

いつだったか、過去のある日のこと。

伊井瀬奈が黒川颯に嫁いで半年余り。二人は一つ屋根の下で暮らしているものの、その関係は赤の他人よりほんの少しだけ近い、という程度だった。

伊井瀬奈は毎日、目の前をうろつく彼を見ては、何か話しかけたいと思いつつも共通の話題が見つからないでいた。彼はいつも忙しく、毎晩仕事から帰るのは遅い。家の食卓でさえ、仕事の電話に出ていることがしょっちゅうだ。

結婚してこれだけ経つというのに、二人はずっと寝室を別にしていた。

その日、伊井瀬奈はシャワーを浴びて大きなベッドに寝転がり、退屈しのぎにスマホをいじっていて、今日が七夕であることに気づいた。

SNSは花束や指...

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