第430章

黒川颯の手際は鮮やかだった。牛バラ肉の下処理を素早く済ませると、冷水から茹でこぼし、最後はカット済みのトマトと一緒に煮込み鍋へ放り込む。その一連の動作は、まるで何千回も繰り返してきたかのように洗練されていた。

エプロン姿でキッチンに立つ彼の背中を、伊井瀬奈は流し台に寄りかかりながら静かに見つめていた。

黒川颯はご飯を炊き、青菜を洗って切り終える。あとは肉が煮えれば、青菜をさっと炒めて完成だ。

手を洗い終えてようやく伊井瀬奈に目を向けた彼は、彼女の視線に気づいた。

「瀬奈、腹減ったか?」

伊井瀬奈は正直に答える。

「お腹は空いてないわ。ただ、あなたが料理する姿を見てたの。なんだか目...

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