第470章

伊井瀬奈はこめかみを軽く揉みほぐすと、ため息交じりに言った。

「三十分ほど待っててもらえる?」

黒川颯は即座に答える。

「ああ、構わない。ゆっくりやれ。俺も付き合う」

伊井瀬奈は再び仕事に没頭し、一段落ついたのはそれから一時間後のことだった。

黒川颯は本来なら『ビストロミニョン』へ新メニューのテイスティングに連れ出すつもりだったのだが、鬼気迫る彼女の様子に声をかけるのを躊躇い、店に料理を作らせてテイクアウトさせたのだ。

折よく伊井瀬奈も空腹を感じていたため、二人は小さな丸テーブルに弁当を広げた。

『ビストロミニョン』の料理は日に日に洗練されていく。黒川颯がかつてJ市から二人もの...

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