第482章

まだ伊井瀬奈が言い終わるのを待たず、伊井真はソファから立ち上がると、スーツの一番下のボタンを留めた。

「荷物をまとめろ、家に帰るぞ」

 今日はわざわざ早めに仕事を切り上げて、伊井瀬奈を迎えに来たのだ。一歩遅れれば、間違いなく黒川颯がまとわりついてくる。仕事が終わった今のうちに、さっさとずらかるに限る。

 あの黒川颯の忌々しい顔など、見たくもなかった。

 伊井瀬奈がパソコンを落とし、デスクの上を片付けている間に、伊井真はすでに彼女のコートとバッグを手に取っていた。言葉こそ発しないが、その佇まいからは「急げ」という無言の圧力が漂っている。

 伊井瀬奈は急いで支度を整え、彼の背中を追って...

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