第166章 何も考えなくていい

スローン視点

彼はそのまま、私が抱えていた紙袋を二つともひょいと取り上げた。視線が迷いなく落ちたのは、持ち手にぶら下がっている淡い色の名刺。

そこに印字されていたのは、金箔の筆記体で刻まれた、たった一文字――H。

さっきまで困ったように笑って、どこか甘やかす気配すらあったジャレッドの顔が、みるみる沈んでいく。顎のラインがきゅっと固まり、深い黒の瞳が名刺を射抜いた。

「ハリソンからか?」

噛み砕くみたいに吐き捨てた声は、氷片を含んでいた。

「違う、変に考えないで」

私は慌てて、力が入りすぎて白くなった彼の手を両手で包む。すぐに事情を説明した。

「今日、デパートのメンズ売り場...

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