第73章 彼はグレイソン

学術交流会を前にして胸の奥でふくらんでいた小さな期待が、彼のその問いかけひとつで、いきなり別の味に変わった。

デイビッド? どうして急にデイビッドの名前が出てくるの。

隠そうともしない探るような口調が、細い針みたいに神経をちくりと刺した。

「デイビッドは行かない」

私は振り返り、底の見えない瞳をまっすぐ受け止める。ひとつひとつ、言葉を区切ってはっきり答えた。

「行くのは私とジェシカ、二人だけ」

言い終えた瞬間、腰に回されていた腕の力が、ふっと緩むのが分かった。

張り詰めたものがほどける、ほんのわずかな変化。けれど私は、それを見逃さなかった。

……この人、まるで音も立てずに縄張...

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