第74章 ハリソン・レックス

ジェシカの呼び声なんて振り返る余裕もなく、私はほとんど逃げ出すみたいにその場を離れた。

人波をかき分け、早足で進む。心臓が喉から飛び出しそうなくらい、どくどくとうるさい。

どこへ向かっているのか自分でも分からない。ただ本能のまま、あの角――あの人影が消えた方向へ。

会場の廊下はやたらと入り組んでいて、分厚い絨毯が足音を吸い込む。残るのは、息が詰まりそうな静けさだけ。

焦りすぎた。角を曲がった瞬間、前を確認する間もなく――

どんっ。

硬い壁にぶつかった、と思った。けれどそれは壁じゃない。人の身体だった。

「……っ」

喉の奥でくぐもった声が漏れ、私はよろめいて後ろへ下がる。ヒールが...

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