第75章 彼に会いに行ったのか?

彼の親切は、あたたかな綿みたいだった。けれどその奥に、鋭い棘が一本だけ隠れている。うっかり抱きしめたら、きっと刺さる。だから私は、近づけない。

名刺をハンドバッグにしまい込み、丁寧に、けれど一線を引いたまま首を横に振った。

「レックスさんのお気持ちはありがたく頂戴します。でもリハビリセンターは結構です。手は本当に大丈夫なので」

その断りは彼に向けたものだけじゃない。今にも勝手に熱を持ちそうな、自分の心への警告でもあった。

彼の瞳から心配が消えることはなかった。ただ、理解したような色と、ほんの少しの残念さが滲む。それでも彼は、それ以上踏み込んでこない。

その、ちょうどいい距離感が――...

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