第86章 物を届ける

スローン視点

彼は玄関に立っていた。昨日と同じコートを羽織ったまま、顔には倦みが張りついている。目の下の疲労は、隠そうとしても隠しきれていない。

それでも――私を見上げた瞬間、あの深い瞳にぱっと光が灯った。

片手には紙袋を二つ。もう片方には、まだ温かいミルクの箱。

紙袋には、木多通りのあのベーカリーのロゴが印刷されていた。ふわり、ふわりと濃厚な香りが漂ってくる。私の大好きなクロワッサン。

……覚えてたんだ。

胸の奥がじんわり温かくなって、私は彼のところへ歩み寄り、自然に荷物を受け取った。

「先に電話してくれたらよかったのに。迎えに下りたのに」

「驚かせたかった」

掠れた声。...

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