第8章

夜が明ける頃、雪に閉ざされた静寂を破り、遠くから人の声が聞こえてきた。

「誰かいませんかー! 生存者の方はいませんかー!」

救助隊の声。近くの観測所が、村の消滅という異常事態を察知してくれたのだろう。私は安堵に息を吐き、最後の芝居の幕を開ける準備を始めた。

太郎の家の、廃墟と化した地下室。真相に繋がる痕跡が一切ないことを冷徹な目で見定め、まだ夢の中にいる結衣をそっと揺り起こす。

「結衣、起きて。助けが来たわ」

娘は眠そうに目を開けた。「お母さん……」

私はその小さな頬を包み込み、言い聞かせる。声は優しく、しかし有無を言わせぬ響きで。

「結衣、よく聞いて。昨日の夜...

ログインして続きを読む