紹介
専門知識を駆使し、雪奈は未来を予言できる巫女を装い、薬草、心理的暗示、そして精密な計算によって、迫害者たちを次々と奇怪な死に追いやった。娘の小雪を「神託」の伝達者として訓練し、村民を恐怖に陥れて互いに疑心暗鬼にさせた。
五年後の山神祭の夜、周到に計画された雪崩が村全体を呑み込んだ。雪解けの春が訪れた時、雪奈母娘だけが生き残っていた。迷信を名目とした復讐劇はついに幕を閉じ、罪悪の灰の中で彼女たちの新たな人生が静かに始まろうとしていた。
チャプター 1
「お母さんの言う通りだった。一人でこんな辺鄙な場所に来るんじゃなかった」
車の窓の外では、ちらついていた粉雪がいつの間にか牡丹雪に変わっていた。カーナビはとうに沈黙し、スマートフォンの電波も途切れ途切れだ。私はハンドルを握りしめ、前方の暗い山道を見極めようと目を凝らすが、吹雪で視界は急速に白く閉ざされていく。
「あの天気予報、小雪だって言ってたじゃない……。ナビも当てにならないし……」
独りごちる声は、自分でも気づかぬうちに震えていた。不安がじわじわと胸の内に広がっていく。
T京大学大学院で民俗学を専攻する私は、フィールドワークのためにこの白峰村を目指していた。指導教員曰く、この村には古くからの祭祀が今なお色濃く残っており、私の修士論文にとってまたとない研究対象になるだろう、とのことだった。だが、この状況では村に辿り着くことすら覚束ない。
不意に車体がガクンと大きく揺れたかと思うと、ぴたりと動かなくなった。アクセルを踏み込んでも、タイヤが雪の上で虚しく空転し、甲高い音を立てるだけだ。最悪だ。スタックしてしまった。
エンジンを切り、震える手でスマホを手に取るが――アンテナは一本も立っていない。外の風雪はますます勢いを増し、まるで獣の咆哮のように唸りを上げている。急速に冷えていく車内に、これ以上留まるのは危険だと本能が告げていた。
ダウンジャケットを羽織り、ニット帽を目深にかぶって、重いドアを押し開ける。外の寒気が一瞬で骨の髄まで突き刺さり、叩きつける雪が顔にひりひりと痛い。私は朧げな記憶だけを頼りに、村があるはずの方角へと足を踏み出した。
一歩一歩が深く、雪はすでに膝上まで積もっている。体力は急速に奪われ、呼吸は荒く、両足が鉛のように重い。どれくらい歩いただろうか。目の前がちかちかし始め、意識が遠のいていくのを感じた。
もう、だめだ。そう思った、その時。
吹雪の向こうから、微かに人の声が聞こえた。
「おい、あそこに誰かいるぞ!」
「女だ!早くこっちへ!」
返事をしようとしたが、喉が凍りついたように声が出ない。視界が真っ暗に染まり、私はそのまま雪の中に意識を手放した。
まず鼻腔をくすぐったのは、古びた木の匂いと、線香の香りだった。
ゆっくりと目を開けると、自分が簡素な木製の寝台に横たえられ、分厚い布団をかけられていることに気づいた。部屋は薄暗く、揺らめく数本の蝋燭だけが灯りとなり、壁には見たこともない神仏の絵がいくつも掛けられている。
ここは……神社の社務所か何かだろうか。
身を起こそうとして、自分が着ているものがいつもの服ではなく、見慣れない浴衣のようなものであることに気づき、心臓がどきりと跳ねた。
「私の荷物は?スマホはどこに?」
慌ててあたりを見回すが、私のバックパックも、スマートフォンも、身分を証明するものは何一つ見当たらない。
その時、軋む床を踏む音がして、黒い和服をまとった老人が部屋に入ってきた。年は六十代くらいだろうか。白髪交じりの頭で、顔には穏やかな笑みを浮かべている。だが、その瞳の奥に、なぜか得体の知れない光が宿っているように見えた。
「お嬢さん、お目覚めですな」彼の声は、ひどく落ち着いていた。「わしは白峰村の村長、大山源次郎と申します」
「こんにちは、名原雪奈です」私は努めて平静を装った。「助けていただき、ありがとうございます。でも、私の荷物を探さないと。それに、外に連絡を……」
「お嬢さん、そう焦らんでも」源次郎は私の言葉を遮った。「あなたの物は、わしらがきちんと預かっております。外はひどい吹雪で山道は完全に閉ざされておる。今出ていくのは、死にに行くようなものですぞ」
先ほどの雪中の出来事を思い出す。確かに、この人たちに助けられなければ、私は本当に凍え死んでいたかもしれない。しかし、心のざわめきは一向に収まらなかった。
「大学に連絡しないと。指導教官が私の報告を待っているんです」
「この山ん中は、もとより電波の入りが悪くてな。雪が止んでからの話です」源次郎は一歩近づき、その眼差しを深めた。「今はゆっくり休むことです。山の神様が、あなた様を大難から救ってくださったのですよ」
山の神様。その言葉に、胸が妙な音を立てた。民俗学を学ぶ者として、そうした信仰には馴染みがある。だが、彼の口ぶりには、何かそれだけではない響きがあった。
「村長さん、私の研究テーマは……」
「存じておりますとも」源次郎の笑みが、さらに深くなった。「この村の民俗を調べに来られたのでしょう?これはまさしく……天の配剤ですな」
その言葉に、全身に粟立った。天の配剤とは、どういう意味だ?
その時、戸の外からまた複数の足音が聞こえ、古風な着物を着た老婆たちが数人、部屋に入ってきた。皆、七、八十は超えているように見える。顔には慈愛に満ちた笑みを浮かべているが、その裏に何か別の感情が隠されているように感じられた。
「春子、雪子、ちょうどいいところへ」源次郎が言った。「雪奈さんが目を覚まされた」
一番前にいた老婆――春子と呼ばれた老婆が、私の寝台の脇に腰を下ろし、品定めするような奇妙な眼差しで私をじっと見つめた。
「お嬢さん、知っておるかい?」彼女の声はひどく静かで、まるで秘密を打ち明けるかのようだった。「わしらの白峰村はのう、三百年もの間、大災に見舞われるたびに、山の神様がよそから女子を一人、お導きになるんじゃ」
「山の神様が導く?」意味が分からなかった。「私はただ、民俗学の研究で……」
雪子と呼ばれたもう一人の老婆が頷く。「そうじゃ、わしらの民俗を研究するためじゃ。ほれ、これが天の配剤でなくてなんじゃろう。山の神様が、あんたを一番良い時にここへお遣わしになったんじゃよ」
彼女たちの話は聞けば聞くほどに混乱するばかりだ。山の神がなんだ、天の配剤がなんだ。私はただのしがない大学院生だというのに。
「山の神様が花嫁をお選びになるのに、間違いは一度たりともなかった」春子はそう続け、その瞳に異様な光を宿した。「山の神の花嫁は、豊作と安寧をもたらしてくださる。じゃが、山の神様の御心に逆らう者は……歴史上、誰一人として良い末路を辿った者はおらん」
花嫁?心臓が喉から飛び出しそうになった。
「待ってください、何を言っているんですか?私にはさっぱり……」
「すぐに分かりますとも」背後から源次郎の声がした。「今宵が、最高の好機なのです」
立ち上がろうとしたが、急に頭がくらくらし、体に力が入らない。さっき、喉が渇いているだろうと老婆たちが飲ませてくれた白湯に……。
「お茶に、何を……?」必死に意識を保とうとする。
「ただの薬草ですよ。気を楽にするための」春子の声が遠のいていく。「怖がることはありません。これが、あなたの宿命なのですから」
視界が滲み、意識が明滅する。微睡みの中、誰かが私に服を着せ替えているのを感じた。白い……婚礼衣装?
「いや……やめて……こんなの望んでない……」
もがこうとするが、体は全く言うことを聞かない。
再びわずかに意識がはっきりした時、自分が白無垢を着せられ、神社の本殿に立たされていることに気づいた。村中の人間が集まっているようだ。揺れる燭台の火が、皆の顔を不気味に照らし出している。
私の向かいには、二十代前半に見える若い男が、紋付袴姿で立っていた。しかし、その眼差しはどこか虚ろで、ずっと私に向かってにへらと笑いかけている。
「よめさ……よめさ……太郎が、まもってやる……」
彼の声は、少し呂律が回っていなかった。
私の心は、完全に絶望の底へと沈んだ。この人は、知的障害を抱えている。
「雪奈、これは山の神の御心であり、そなたの宿命だ」源次郎が前方に立ち、威厳に満ちた声で告げた。「太郎は知恵こそ足りぬが、心根の優しい男だ。そなたを大事にするであろう」
「こんなこと許されない……」大声で叫びたかったが、声は自分でも聞き取れないほどに弱々しい。「これは犯罪です……私を家に帰して……」
源次郎の表情が、氷のように冷たくなった。「犯罪?この山の中では、山の神こそが法なのだ」
神社全体に、突如として読経のような斉唱が響き渡った。
「山の神の御加護あれ、花嫁の降臨ぞ、白峰は永く栄え、子孫は満ち足らん!」
その声は古びた社殿に反響し、薄暗い燭光と不気味な神像と相まって、全ての光景が悪夢のように非現実的だった。
抗いたい、逃げ出したい。しかし薬のせいで立つことすらままならない。目の前の全てがぐるぐると回り、村人たちの顔が燭光の中で歪み、まるで悪鬼のように獰猛な笑みを浮かべている。
「山の神の御加護あれ、花嫁の降臨ぞ、白峰は永く栄え、子孫は満ち足らん!」
呪文のような声はますます大きく、ますます揃ってゆき、私の魂ごと飲み込もうとしているかのようだ。
最後の理性が、終わった、と告げていた。私は本当に、終わってしまったのだ。
完全に意識を失う直前、源次郎がこう言うのを、確かに聞いた。
「儀は成りた。これより後、雪奈は我ら白峰村の者となる」
そして、全てが闇に閉ざされた。
外では吹雪がなおも荒れ狂い、村全体が、不気味な祝祭の空気に包まれていた。
誰も知らない。かつて自由だった一つの魂が、こうして永遠に、この世から隔絶された山村に囚われてしまったことを。
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私が去った日
けれど最後に彼が選んだのは、私ではなく、彼の初恋の女性だった。
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嘘で塗り固められた結婚生活の中で、私は少しずつ自分を失っていった。
息が詰まるような日々。愛されていると思い込んでいた時間。すべてが偽りだった。
けれど、彼らはひとつだけ間違えた。
私を、もう戻れないところまで追い詰めたこと。
私が去ると決めたあの日。
私は、最低な夫も、母親への感謝を忘れた息子も、そして彼らによって壊された過去の自分も、すべて置き去りにした。
親友の支え。そして、私の本当の価値を見抜き、才能を認めてくれたある若き実業家との出会い。
その温かな手によって、私はもう一度、自分自身を取り戻した。
失った誇りを取り戻し、眠っていた才能を開花させ、世界へ羽ばたくデザイナーとして新たな人生を歩み始めた。
今、私の作品は世界の舞台で輝いている。
一方で、かつて私を捨てた男は、跪いて許しを乞う。
「戻ってきてくれ」と。
けれど、もう遅い。
私が去ったあの日こそが、私が本当の自分を取り戻した日。
もう二度と、過去には戻らない。
捨てられたルナの復讐
「ベラ」イーサンの声音が変わった。わたしが嫌というほど知っている、あの警告めいた刃が混じる。「いまのフェイは不安定なんだ。おまえが彼女を恨むんじゃないか、これで群れが割れるんじゃないかって、怯えてる。彼女がいちばん望んでないのは、この子が俺たちの間に入り込むことだ」
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「いい加減にしろよ」彼は苛立ちまぎれに髪をかきむしった。「何度言えば――人工授精だ。俺の精子を使ったのはそうだが、フェイと俺は――」
ベラは冷えきった鼻笑いを漏らした。なんて厚かましい嘘。彼女の伴侶は、兄の番と関係を持ち、家族ぐるみで彼女を何も持たせず追い出した。愛人が「正しい」座に収まるために、道を空けるように。哀れな愚か者――彼は、彼女がただの厄介な養女で、簡単に切り捨てて支配できると思い込んでいた。自分が探し求めていた天才的な技術者が、まさか自分のルナだったとは、ついぞ知らずに。
彼が自らを汚した時点で、ベラの中ですべては終わった。彼女は彼を拒み、奪われたものを取り戻した。何年も密かに彼女を愛してきたヴィクターの助けを得て、頂点へと駆け上がっていく。
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社長秘書のヒミツ恋情
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