第9章
結衣は東京の福祉施設に預けられ、数ヶ月後、子供のいなかった心優しい中年夫婦の養子となった。二人は結衣の過去を静かに受け止め、実の娘のように慈しんだ。
だが、結衣の心には、あの雪深い村で刻まれた影が落ちていた。
「お母さん、どうして人は、お互いを傷つけ合うの?」
食卓で、公園で、眠る前に。十歳になった結衣は、ふとした瞬間にそう問いかけるようになった。養父母は答えに窮しながらも、その小さな心を温かく包み込もうと努めた。
彼らは、結衣が専門家の助けを必要としていることを理解していた。
十五歳の春。カウンセリングルームの柔らかなソファに沈み込み、結衣は震える声で告白した。
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章 

9. 第9章 


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