第163章

力が圧倒的に懸殊している時、生命は抗うための唯一の切り札となる。

目の前の光景を目の当たりにした唐沢優子にとって、それが唯一の感想だった。

まだあどけなさの残る顔に、その歳には不釣り合いな決然とした淡泊さが浮かんでいる。彼らは互いの手を引き合いながら海へと歩み入り、荒れ狂う波に呑み込まれていった。

バロンはぎょっとして、止めに入ろうとしたが、藤田高今に引き留められた。

「行くな、これは歴史だ。俺はもうこの状況が起きるのを五回も見てきた」

藤田高今が言った。「彼らはもう六十年前に死んでいる。今お前が見ているのは、ただ繰り返される歴史に過ぎない」

ここはすでに死んだ町の幻境。罪ある亡...

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