第172章

人魚は二度と現れなかった。

唐沢優子は砂浜を離れた。

記憶の中では、この島をじっくりと眺めたことなどなかった。だが今回は、何かが違うことに気づいた。

この島は想像していたよりもずっと美しく、豊かだった。大洋に浮かぶ無人島だというのに、波はほとんどなく、静かすぎるほどだ。空が厚い雲に覆われ、今にも豪雨が降り出しそうなこと以外は、豊かで静かだと言っていい。

島には大型の獣さえおらず、人間にとっては非常に安全だった。

記憶を頼りに、唐沢優子はその小屋を見つけた。周囲には名も知らぬ小さな花がたくさん咲き、青々とした蔓植物が軒先に沿って伸びていて、とても温かみのある佇まいだった。...

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