第289章

アメフラシはまだラクシャ市にいるはず。

唐沢優子は内心でそう推測した。

夢の中で自分が八雲百合子でなかったように、水谷温樹もまた水谷温樹ではない可能性がある。

ラクシャ市の食料はすべて期限切れで、生産日は十年も前だった。唐沢優子が口にできるものは何一つない。

長期間食事を摂らなかったことで、彼女の体は冷え始めた。店で見つけた最も伝統的な水銀体温計を脇に挟み、しばらくして体温を確認すると、30度にも満たなかった。

一度視力が戻ると、人ならざる特徴が徐々に回帰し始める。

以前の状況とは異なり、前回体温が下がったときは食欲が湧かなかったが、今回は食に対する渇望と貪欲さが次々と生まれ、絶...

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