第296章

「大丈夫ですよ、怖がらないで」

 唐沢優子は無表情な顔に無理やり安堵の色を浮かべ、小型のレーザーガンをポケットに戻すと、腰を屈めて老婆を支え起こした。

「まずは止血に連れて行きます」

「ありがとう、ありがとう……」

 老婆はぶるぶると震え、声までもが震えていた。

 不意に、立ち上がろうとする動きが止まる。

 唐沢優子は、極めて奇妙な匂いを嗅ぎ取った。それは以前、アルセルが意気揚々と料理をしようとして、スマホに夢中になっているうちに水をすべて蒸発させてしまい、鉄板が熱せられ続けたときの、乾いた鼻を突くような匂いに似ていた。

 老婆の手の中で、冷たい光を放つ注射器が煌めき、猛然と彼...

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