第304章

視線に気づいたのか、その男が鋭くこちらを見た。唐沢優子は見つかる寸前で視線を逸らし、車内に身を戻す。

分厚いマジックミラーが男の視線を遮る。フードに顔を隠しているため、はっきりとは見えない。

遥かな距離を隔てていても、唐沢優子は相手から厭世的な雰囲気を色濃く感じ取っていた。

男は瞼を半分持ち上げ、漆黒の瞳には一筋の光も差し込まない。まるで深淵のようだ。こちらを見つめたまま、火のついた煙草を無造作に地面に捨て、靴底で揉み消した。

その何気ない動作に、なぜか息を呑むような凄みが宿っていた。

石畳から死に物狂いで足掻くような青煙が数筋立ち上る。男は視線を戻すと、気怠げに身を翻し、バーの中...

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