第325章

そこにあるのは、ぼんやりとした輪郭だけ。灰色で、粘り気がある。

歩き回ると、身体がぽたぽたと滴り落ち、チョコレートが溶けるようにゆっくりと形を変えていく。

これはいったい何なのだろう?

唐沢優子がそう考える暇もなく、視界の端から闇が侵食し始めた。

世界全体が、悪戯好きな子供に突き倒された積み木のお城のようだ。周囲の高い建物が少しずつ砕け散り、不規則な幾何学模様の破片と化していく。彼女は足を上げて一心不乱に前へ走るが、背後の光景は刻一刻と消えていく。

唐沢優子には予感があった。もし立ち止まれば、この崩壊し続ける世界に呑み込まれ、自分も一緒に積み木のような破片へと砕かれてしまうだろうと...

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