第49章

片腕の中年男性は以前と変わらず、文学的な雰囲気を纏い、鼻筋には細い金縁の眼鏡をかけていた。話を聞くと、そばにいた数人に「少し失礼」と声をかけ、早足で唐沢優子の方へ歩み寄ってきた。

誰かが何気なく顔を上げ、その視線が唐沢優子の顔をかすめたが、一秒と留まることなく、すぐに自分たちの話に戻っていった。

微かに、交互観察実験、といった言葉が聞こえてくる。

「どうぞ、お座りください」

零崎教授は前回よりもずっと態度が柔らかくなっており、彼女に一杯のお湯を注ぐと、傍らのソファへと案内した。「聞きましたよ、人魚を一体、引き受けたいそうですね?」

唐沢優子は頷いた。「はい。彼が頻繁に暴力を受けてい...

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