第52章

そう言い終えると、唐沢優子はくるりと背を向け、不意に「嘶っ」と息を呑んだ。

耳の下あたりが、少し痛む。

手を伸ばして触れてみると、耳たぶが赤く腫れて湿っており、首筋の一部分に少し触れるだけで刺すような痛みが走った。

彼女が茫然としている間、背後の人魚がそっと舌先を伸ばし、自身の歯を舐めていたことには気づかない。

その綺羅びやかな薄い唇は、蹂躙された花びらのように殷紅に染まっていた。

浅い金色の柔らかな長髪が彼の動きに合わせて水中に揺蕩う。人魚は振り返り、彼女の背中が扉の向こうに消えるのを見送った。

彼女を見送る道すがら、アシスタントの視線が、それとなく唐沢優子の耳元へと向けられて...

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