第56章

アセルは、自分に向けられていた殺気立った触手が遠ざかっていくのを感じた。ドアノブに絡みついていた青緑色が引いていき、自分の前に立つ唐沢優子の背中は、華奢でありながら、格別に頼もしく見えた。

彼女は振り返らないまま、アセルに言った。

「あなたは先に出て」

アセルは我に返り、複雑な表情を浮かべる。「じゃあ、駐車場に行ってる。早く来てね」

そう言うと、躊躇うことなく素早くドアノブを回し、身を翻して部屋を出ていった。

アセルが去ると、青年の身体から緊張感がかなり和らいだ。

唐沢優子は、柔らかくなったその触手を掴んでゆっくりと撫で、彼の感情を宥める。やがて、触手の肌が一寸ずつ青藍色を帯びて...

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