第6章
一七号が目を覚ました時、唐沢優子《からさわゆうこ》はシャーレの傍らに座り、彼の傷に薬を塗っているところだった。
「目が覚めたのね。他にどこか具合の悪いところは?」
女性の優しい声が、まるで羽根で耳朶を撫でられるかのように響く。
彼女の背後にあるガラスには、目を赤くしたアメフラシが水槽の縁に張り付いて彼女をじっと見つめており、その両目には霧が立ち込めていた。
少年は唐沢優子の気を引こうと、白磁のようにきめ細やかな腕を水面から伸ばし、彼女へと差し出す。しかし、唐沢優子の視線はすべて一七号に注がれており、背後のアメフラシには気づいていなかった。
一七号はガラス製の水槽の中で身を預け、まだ完治していない傷ついた触手は飼育主に両手で包まれている。冷たい軟膏が彼女の指先から広がり、抑えがたい痺れにも似た感覚が走った。
青年は目を伏せる。その細やかな睫毛は、誰かの手の中で逃れられない蝶のように、震えが止まらない。
心が、途方もない喜びと幸福感で満たされていく。
苦しめば、彼女の気を引けるのだ。
なんと素晴らしいことか。
彼は思わず上半身を起こし、その端正な顔を彼女の手にすり寄せた。濡れた真新しい触角が、慎重に彼女の服に吸い付く。
吸盤が絶えず吸い付き、食むように動き、満足げな溜息が漏れる。
それは冷血動物がもたらす、冷たい感触の依存と親愛の情だった。
唐沢優子は彼が額にかかる濡れた髪をかき分け、その非人間的なまでに美しい顔を露わにする。相手の何も分かっていないような眼差しの中、彼女は言った。
「口、開けて」
一七号は素直に口を開け、唇の内側にある、鋭く毒を持った逆向きの鉤爪のような顎片を見せる。
唐沢優子は彼に飴玉を一つ与えた。
「はい、おしまい」彼女は手を上げ、彼の顎を閉じさせると尋ねた。「どう?」
青年は笑うことができない。その顔には喜怒哀楽というものがない。彼は唐沢優子が引き戻す手に寄り添い、彼女の傍らで身を寄せながら、温度のない単音節を発した。
「甘い」
好きだ。
彼女の体温を感じながら、胸の奥に不思議な灼熱感が広がっていく。
これは彼女がいつも行う慰めの行為。飴と呼ばれる圧縮炭水化物を一つ与えること。
たとえ味覚がなくとも、青年は甘さを感じ取っていた。それが自らの冷たい血液の中へと流れ込んでいく。
アメフラシは両腕をさらに強く伸ばした。その美しい顔には微かに歪んだ嫉妬が浮かび、下唇を噛みしめ、一七号を見つめる瞳には殺気が満ちていた。
もし唐沢優子がこの時振り返れば、かつては温和で可愛らしかったアメフラシの、嫉妬深く陰鬱なもう一つの顔を目にしただろう。
冷血動物が擬態をしないなどと、誰が言ったのか。
自然界のあらゆる生物には自己防衛の本能があり、また擬態によって敵を欺くことにも長けている。カメレオンが、枯葉蝶が、タコでさえも変色による擬態を得意とし、脅威を感じれば即座に防御態勢に入り、周囲の環境と一体化する。
外見で獲物を惑わすのは、何億年という生物の進化の過程で、DNAに刻み込まれた狩猟本能なのだ。
彼女がおとなしいものを好むなら、彼らはいくらでもおとなしくなれる。
一七号もまた、そうだった。
彼は意図的ともとれる動きで腰を捻り、分裂実験で負った重傷の傷口を飼育主に見せつけた。
実のところ、ほとんどの傷はとうに癒えていたが、彼女の同情を得るためだけに、自らの手で再び引き裂いたものだった。
案の定、唐沢優子の瞳に痛ましげな色が浮かぶ。
「どうしてまだ治らないの?」人間らしい繊細な指が、欠けた触角の先に触れ、そっと撫でる。抑えがたい戦慄が走った。
青年はばつの悪そうな顔でうつむき、ようやく眼底に宿る本当の考えが漏れ出るのを堪えた。
彼の飼育主が、傷に触れている。とても、優しく。
それは痛みよりも数万倍も鮮明な感覚刺激だった。
アメフラシはさらに狂ったように、目を赤くして、何度もガラスに体を打ち付け始めた。
「優子……僕も、痛い……」
彼は自らを傷つけんばかりだった。
唐沢優子は頭痛をこらえながら叱責する。「騒がないで。言うことを聞いて」
だがすぐに、互いに嫉妬し合っていた二匹の冷血動物は警戒を露わにした。
一七号の冷たい瞳が、無感動にドアの方を向く。引き締まった美しい筋肉が瞬時に緊張した。
唐沢優子はその異常に気づき、同じように視線を向けると、ドアの外で呆然と立つ相馬伊織の姿が目に入った。
「どうしてここに?」
「私が来ちゃいけないわけ?」彼女は唐沢優子の視線を受け止めると、うっとりとした表情を消し、ゆっくりと、そして尊大に腕を組んだ。
「あなたの実験体が分裂テストをパスしたって聞いたから、お祝いに来たのよ」
口では祝いの言葉を述べながらも、その口調はまったく別のものだった。
唐沢優子は一七号の強張った腕を軽く叩き、力を抜くよう促す。青年は素直に、しかし名残惜しそうに触角を離し、次に戸口の招かれざる客を見た時、その瞳には隠そうともしない殺戮欲が宿っていた。
「ここは私のセクターよ。あなたは来るべきじゃない」唐沢優子は前に進み出て、彼女の視線を遮った。
しかし相馬伊織は髪をかき上げ、この一級飼育員をまるで意に介していない。
同じくA区に属する研究員だが、相馬伊織が飼育する数体の実験体は、唐沢優子のものとは全く異なり、非常に醜悪で禍々しく、生来凶暴で冷酷、見る者に恐怖を抱かせる。
海洋生物は、これまで一度も飼い慣らされたことがない。
たとえ最も人間に懐くイルカやシャチでさえ、人間の指示に完全に従うことはできないのだ。ましてや、これら凶暴で野性的な異種の海洋生物ならなおさらだ。
だからこそ、唐沢優子の実験体は、実験基地全体で伝説のような存在となり、誰もが彼女の手腕に舌を巻いていた。
それゆえ、相馬伊織は常に唐沢優子麾下の実験体たちを虎視眈々と狙っていた。
彼女は水槽の向こうにいる美しい生き物を見つめ、何かを思案している。
その表情は、どこか艶めかしい。
「そうね。もう少し、彼らと一緒にいてあげるべきだわ」
なにしろ、もうあまり時間はないのだから。
唐沢優子は眉をひそめた。彼女の口ぶりに含まれる、疑念を抱かせる得意げな響きが気にかかる。「どういう意味?」
相馬伊織は髪をかき上げ、笑みを浮かべながらガラスの向こうの人型の生き物にウィンクしてみせた。
そして踵を返し、まるで本当に挨拶に来ただけだというように立ち去っていく。
・
アルセルの車は、退勤後、時間通りにやってきた。唐沢優子を誘い、一緒に街の中心部へ飲みに行く約束だった。
実験基地の給料は、その危険度と同じくらい高い。夜、人々は陸の上で暮らし、一見すると安穏な生活を享受している。
唐沢優子は少し飲み過ぎた。
アルセルが失恋したと泣きわめき、大量に酒を飲んだからだ。
幸い、車には自動操縦機能が付いていた。
隣のテーブルで誰かが異種生物について話し、大笑いする声が聞こえてくる。「そんなの嘘っぱちに決まってるだろ、まだ信じてんのかよ?」
「でも、この間本当に見たんだ。半分の顔は人間で、もう半分は……腐ってて、イソギンチャクみたいだった」
「そりゃ飲み過ぎだろ!世の中にそんなもんがいるわけないだろ!」
唐沢優子とアルセルは顔を見合わせた。
アルセルが言う。「少し前にD区で低級実験体が一体逃げたんですが、すぐに捕まって……もう処分されたそうです」
唐沢優子は黙ってグラスを置いた。アルセルはしばらく黙っていたが、やがて彼女に倣ってグラスを置いた。
あっけない死。それが、価値のない実験体のほとんどが迎える、最後の結末だった。
人間の想像力ごときが、残酷な現実より豊かであるはずがないではないか。
