第71章

空気中には、異香を伴う血の匂いが凝り固まっている。隅からは人魚の弱々しい呼吸音が聞こえてきた。

彼に、もう逃げ場はなかった。背中は冷たい金属の壁に張り付き、氷片のような質感の鱗の下から、血がじわりと滲み出ている。

アセイランは氷霜のごとき冷たい表情で、唐沢優子に言った。「偽物だ」

しかし、その唐突な言葉は彼女の注意を引かなかった。

人魚は半ば目を伏せ、冷たい身体を彼女に預けている。

傷ついた尾鰭が彼女の脚に乗り、髪が彼女のものと絡み合う。

その様は、まるで彼女の腕の中にすっぽりと抱かれているかのようだ。

黒髪黒目の青年は、たちまち寒気をあたりに撒き散らす。触手は...

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