第90章

定められた伴侶と共に人間の世界を歩き回るのは、まったく新しい体験だった。その感覚はひどく馴染みのないものだったが。

彼はそれがとても気に入っていた。

唐沢優子にしてみれば、話は別だ。

人魚を寝具売り場から引きずり出すのは、骨の折れる作業だった。花柄のシーツに未練を残す人魚をなんとか説得し、紳士服売り場を見つけて彼をそこへ押し込んだ。

「あなたに似合うのはこっちよ。さあ、選んで」

唐沢優子は大富豪が恋人を連れてショッピングに来たかのように鷹揚に手を広げた。「好きなのを一式選びなさい。タグだけ外して私に渡してくれれば、電力が復旧したら私が払っておくから」

ナルキッソスは感情の薄い表情...

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