第34章 実は、彼が黒崎統夜

速水の母の声は決して小さくなく、静まり返ったカフェの中では耳障りなほどに響いた。

柱の陰に座っていた男がサングラスを外し、こちらを一瞥してからすぐに視線を戻すのが、速水ミオの目に入った。

一見すると無関心を装っているが、彼がこちらの会話に聞き耳を立てているのは明らかだった。

「ミオ」

いつまで経っても返事をしない速水ミオに、速水の母は苛立ちを露わにした。

「一億円あれば色々なことができるでしょう。まだ足りないと言うの? 少し強欲すぎるのではないかしら」

「速水の奥様」

速水ミオは彼女の言葉を遮った。

「金が欲しいなどと一言も言っていません。私はS市を離れません。いくら積まれよ...

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