第69章 あの時の人は、速水ナナではない

速水ミオは小首を傾げ、オフィスの中を覗き込もうとした。

だが、氷室ジンが立ちはだかり、視界を遮る。彼は真顔で見つめ返してくるが、その整った目元は楽しげに笑っていた。

「氷室社長」速水ミオは視線を戻した。「南アフリカのプロジェクトですが、担当を降りることはできませんか?」

氷室ジンの笑みが瞬時に凍りつく。裏返った声が出た。

「降りる? なぜだ?」

 ガタリ——

オフィスの中から、椅子の脚が床タイルを擦る音が響いた。

速水ミオがドアの隙間から中を窺うと、デスクの向こうに座っていた人物が立ち上がり、こちらへ近づいてくる気配がした。姿は半分ほど遮られ、ぼんやりとしていて判然としない。

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