第2章
川島沙也加視点
家はまるで墓場のようだった。
ソファに身を丸め、シルクのローブが辛うじて脚を覆うのも構わず、私は百度目になるスマートフォンの画面を睨みつけていた。画面には、高橋涼からの最後のメッセージがまだ光っている。
床から天井まである窓の向こうには、私の気分と同じくらい真っ黒な海が果てしなく広がっている。暖炉の火だけが室内に落ち着かない影を落としていたが、その暖かさでさえ、胸の中にできつつある冷たい塊に届くことはなかった。
リビングを端から端まで歩き回った。その時、ふと気づいた――コーヒーテーブルの上に置き忘れられた、高橋涼のライカカメラに。
冷たい金属の表面を指先でなぞると、突然、カシャッとシャッターが切れた。
身体が許可なく動き、わずかに背を反らし、顎を上げ、唇を微かに開いていた。
「なんなのよ、これ……?」
私は凍りつき、暗い窓に映る自分の姿を見つめた。
「どうして私、この音を聞くと……こんなポーズをとりたくなるの?」と、私は自分に囁いた。「ああ、もう、頭がおかしくなりそう」
T市への旅行で撮った、高橋涼と私の写真立てを手に取り、親指で彼の笑顔をなぞる。
「涼、いつ帰ってくるの?好きなパスタ、作ったのよ……もう冷めちゃった頃かしら」
階段を半分ほど上ったところで、スマートフォンが震えた。
知らない番号からだ。
『真実を見て。彼はあなたを愛したことなんてない。――友人より』
メッセージの下にはリンクが一つ。心臓が肋骨を叩きつける中、私の指はその上で彷徨った。クリックしちゃだめだと本能が叫んでいたが、もっと暗い何かが「知るべきだ」と囁いていた。
リンクは動画ファイルに繋がった。最初は画像がぼやけていたが、ゆっくりと焦点が合っていく。
プライベートな撮影スタジオ。赤いシルクのカーテンとプロ仕様の照明。高価で、そして見覚えのある場所だった。
「何、これ……?涼はどこで撮影してるの?」
私の声は、誰もいない家の中でひび割れた。
カメラの画角が広がり、彼がそこにいた。レンズに背を向け、カメラを手にした高橋涼。だが、一人ではなかった。
もう一人はシルクの衝立の陰から、まるで夢の中から抜け出してきたかのように現れた。
石田美咲だ。ざらついた映像越しでも、高橋涼が彼女を忘れられなかった理由がわかった。彼女は私に似ている、でも……もっと上質。もっと洗練されている。私が荒削りなスケッチで、彼女が傑作であるかのように。
高橋涼はカメラを置き、彼女を腕の中に引き寄せた。二人のキスは飢えた、必死なものだった。
「あいつは、君がいなくて寂しいのを紛らわすための、ただの身代わりだよ」高橋涼の声は、はっきりと聞こえてきた。「君が戻ってきた今、もう用済みだ」
その言葉は、物理的な打撃のように私を打ちのめした。スマートフォンを握る指の関節が白くなるほど力を込める。
石田美咲が笑った。先ほど電話で聞いた、あの音楽のような声で。
「でも、私に似てるんでしょ?気色悪くないの?」
「だからこそ選んだんだ。でも、あいつは安っぽいコピーだ。君がオリジナルで、唯一の存在だよ」
その時、石田美咲は、まるで私が見ていることを知っているかのように、カメラをまっすぐに見つめた。彼女の微笑みは純粋な毒そのもので、ゆっくりと「私の勝ち」と口を動かし、レンズに向かって投げキスをした。
私はスマートフォンを叩きつけるように閉じ、床に崩れ落ちた。身体が制御不能に震えている。
彼が私を愛してくれていると、私は特別なのだと、私たちの関係は本物なのだと、三年間信じてきたのに。
「愛されてると思ってた……。私、ただの身代わりだったなんて……」
私は両手で顔を覆い、嗚咽した。
涙で視界がぼやける中、よろめきながらバスルームへ向かった。化粧水や美容液の奥、薬箱の中に、私の睡眠薬のボトルがあった。最近眠れずにいたが――今、その理由がわかった。
錠剤がカラカラと音を立てる。二錠、手のひらに出した。そして三錠。
「今夜はもう一錠だけ。眠らないと。忘れなくちゃ」
涙越しに注意書きを読みながら、私は囁いた。
私はそれらを水なしで飲み込み、キングサイズのベッドに這い上がると、高橋涼の枕を胸に抱きしめた。まだ彼のコロンの香りがした。
「明日になれば、これが全部、悪夢になっていればいいのに」
睡眠薬はハンマーで殴られたかのように効いてきて、私をぼんやりとした半睡状態に引きずり込んだ。霧の中、再びあの音が聞こえた――階下から響いてくる、ライカのシャッターが切れる、あの独特の「カシャッ」という音が。
ゼリーのようになった脚で、リビングへと下りていく。カメラは私が置いた場所にそのままあった。高橋涼はまだ帰っていない。
震える指で、カメラのメモリーをスクロールする。小さな画面を埋め尽くすのは、石田美咲の写真、また写真。親密なショット、芸術的なヌード。高橋涼が私の体を撮ったことのないような、まさにそのポーズで。
「石田美咲……石田美咲……」薬と絶望でかすれた声で、私は呟いた。「どうして、私より綺麗なの……?」
目が焼けるように痛くなるまで、私は写真を見つめ続けた。
「この写真……彼は私をこんな風に撮ってくれなかった……このレンズを通して彼女を見ているような目で、私を見てくれたことなんて一度もなかった」
感覚のなくなった指からカメラが滑り落ち、コーヒーテーブルにガチャンと音を立てた。
でも、この三年間、私は高橋涼にとって完璧なモデルで、完璧な恋人だったはずじゃなかったの?
かつてのプレイボーイは、その間、私だけに夢中で、私だけを撮り続けていた。石田美咲って、一体誰なの?
たとえ私がただの代用品だったとしても、今の高橋涼は私のものだ。







