第3章

川島沙也加視点

目が覚めたとき、頭蓋骨を斧でかち割られるような、そんな頭痛がした。

床から天井まである窓から差し込むC市の朝日が、赤く腫れ上がった目をさらに刺すように痛めつける。

口の中には睡眠薬の苦い後味が残り、昨夜の出来事が蘇る。

石田美咲。高橋涼。あのクソみたいな動画。

寝室のドアが静かに開く音に、私は凍りついた。

現れたのは高橋涼だった。片手に朝食のトレー、もう片方の手には白い薔薇の花束を持ち、その顔には、これまで幾度となく見てきた、完璧なまでの心配と罪悪感が浮かんでいた。

「沙也加、昨日のことは本当にごめん」彼はトレーを置きながら囁いた。「石田美咲がパニック発作を起こして、放っておけなかったんだ」

私は腫れぼったい目で彼を見つめ、まるで溺れているような気分だった。

「動画を、見たの……誰かが、二人の動画を送ってきて……」

彼の顔は即座に驚きに変わり、一瞬、その表情が本物だと信じそうになった。

「何の動画だ?沙也加、誰かが私たちの仲を裂こうとしてるんだ。ネットで見るものすべてを信じちゃだめだ」

そのとき、彼がベッドサイドテーブルに置いたニコンD850に気がついた。その黒いボディが朝の光を浴びて鈍く輝いている。

「この瞬間を撮っておきたいんだ」彼はそっとカメラを持ち上げながら言った。「私たちの、新しい始まりを」

ニコンのシャッター音は、小気味よく甘美に響いた。そして私は、自分でも気づかないうちに唇の端を上げて微笑んでいた。それは呼吸のように、自動的な反応だった。私の身体は、まるで溶けるように枕へと身を預け、より優雅なポーズをとっていた。そして突然、私は……安心感を、愛されているという感覚を覚えた。

「これこそが、私の本当の彼女だ」高橋涼は撮影を続けながら呟いた。「美しくて、自然で、完璧だ」

カシャッ。カシャッ。

シャッター音が響くたび、胸の中に温かいものが広がっていく。私は首を傾け、髪がそっと肩に落ちるに任せた。石田美咲のことも、動画のことも、数時間前に私を粉々に打ち砕いたすべてのことを、すっかり忘れて。

「こうして撮ってもらうと、すごく幸せ……」

自分の声が、柔らかく夢見るように響くのが聞こえた。

「ほらね?カメラは嘘をつかない。真実を写すんだ。そして真実とは、私が愛しているのは『君』だということさ」

カシャッ。

またしても至福の波が押し寄せる。ああ、どうして私は彼を疑ったりしたんだろう?

午後になると、高橋涼は私を彼のプライベートスタジオに連れて行った――数え切れないほど入ったことのある部屋なのに、なぜか今日は新しく感じられた。壁には彼のカメラコレクションが貴重な美術品のように飾られ、一つ一つにその「重要性」を記した小さなラベルが貼られている。

「最初のデート、覚えてる?」彼はキヤノン5D Mark IVを指差した。「H市西区のあの小さなカフェで、君の恥ずかしそうな笑顔を撮ったのがこれだ」

胸が熱くなる。あの日のことを覚えていた。私がどれだけ緊張していたか、彼が私を世界で一番美しい女性だと感じさせてくれたか。

「そしてこれは……」彼はライカQ2に恭しく触れた。「結婚式の写真を撮るために、とっておいたんだ」

目に涙が滲んだ。

「本当に?」

「私も、あなたに釣り合うように写真を学びたい」私は彼の腕に抱きつきながら囁いた。「教えてくれる?」

「もちろんさ。君は天性のモデルだよ。まるで、それぞれのカメラが何を求めているか、本能的にわかっているみたいだ」

彼が様々なカメラを試し始めると、魔法のようなことが起こった。

キヤノンがカシャリと鳴ると、私の身体は自動的にプロのポーズへと切り替わる――顎を上げ、背筋を伸ばし、鋭い眼差しで。

ライカのよりシャープな音は、私を妖艶で自信に満ちた気分にさせ、背中をわずかに反らし、唇をほんの少しだけ開かせた。

でもニコンは……ニコンは私をお姫様のような気分にさせてくれた。柔らかく、甘く、心から満ち足りた気持ちに。

「本当?私、才能あるのかも!あなたといると、すごく自然にできる」

私は自分の能力に喜び、笑った。

高橋涼は微笑んでいたが、その瞳にはどこか読み取れない感情が宿っていた。

すべてが完璧だったのは、その夜の十一時半までだった。

ソファで寄り添って丸くなっていると、あの忌々しい着信音が鳴り響いたのだ。しかし今回、高橋涼は急いで席を立たなかった。それどころか、リビングでそのままビデオ通話に出た。

「石田美咲、どうしたんだ?」

彼の声は、以前にも聞いたことのある、あの優しい音色へと瞬時に変わった。

彼のスマホの画面に、彼女の顔が見えた――こんな夜更けだというのに完璧なメイクを施した、息をのむほど美しい顔。目は赤かったが、パニックで泣いているわけではないことは明らかだった。

「昨日の午後のことを考えてたの」石田美咲は訛りのある言葉で甘く囁いた。

「あなたがいなくなった後、ソファで眠っている『身代わり』ちゃん、とっても可愛かったわ。あなたの……あれの後って、いつもあんなに深く眠るのかしら?」

私の血は氷になった。彼女がここに?この家に?

「美咲、今はやめてくれ」

高橋涼は神経質そうに私を一瞥した。

「あら、彼女そこにいるの?」石田美咲の笑い声は、割れたガラスのようだった。

「涼からプロジェクトのこと、たくさん聞いているわ。三年も訓練されて、まだ何も知らないんでしょう?」

「彼女に見せてあげなさい」電話越しに石田美咲の声が命じた。「あなたのニコンを出しなさい」

「美咲、これは――」

「やりなさい。あなたの条件付けが本当に機能するか、見たいの」

高橋涼は不承不承、わずかに震える手でニコンを手に取った。

「沙也加、もう寝ようか……」

だが、石田美咲の声がそれを遮った。

「彼女の写真を撮りなさい。あなたのお人形を、どれだけうまく躾けたか見せてちょうだい」

カシャッ。

シャッター音が耳に届いた瞬間、あの自動的な微笑みが私の顔に広がった。止められない。石田美咲が見ているとわかっていても、屈辱を感じていても、私の身体はまるでクソみたいな操り人形のように反応した。

「完璧ね!」石田美咲は嬉しそうに手を叩いた。「本当に我慢できないみたいね?次はキヤノンを試してみて」

「やめて」と私は囁いたが、高橋涼がキヤノンを持ち上げると――

私の背筋は伸び、顎が上がり、瞳は焦点を結ぶ。プロフェッショナルなポーズ、完璧で、無心で。

石田美咲の笑い声が部屋に満ちた。

「パブロフも誇りに思うでしょうね。これを三年間も続けて、彼女はこれを愛だと思ってるんだから」

涙が頬を伝っていたが、カメラがクリックするたびに、私は微笑んだ。制御できない。私の身体は、何度も何度も私を裏切った。

「最高なのはね」石田美咲は続けた。「彼女は永遠にやめられないってこと。今、真実を知っても、抵抗できないの。できるか?ペットちゃん?」

高橋涼はカメラを下ろし、気分が悪そうな顔をしていた。

「美咲、もう十分だ」

「もう一枚」彼女は言い張った。「ライカを使いなさい。彼女が泣きながらセクシーなポーズをとるところが見たいの。最高においしそうだわ」

「いや」私は嗚咽しながら後ずさった。「お願い、もうやめて」

だが高橋涼は、それでもライカを持ち上げた。

そして私は――背中を反らし、唇を開き、頬に涙を流しながらも、妖艶で魅惑的な表情を浮かべていた。その矛盾は、グロテスクだった。

「美しいわ」石田美咲は息をのんだ。「その写真、送ってちょうだい。額に入れて飾りたいわ」

高橋涼がようやく通話を終えた後、私はバスルームの床に座り込み、自分の姿を鏡で見つめていた。

顔は泣き腫らしているけれど、私は……綺麗に見えた。不幸のどん底にいても、写真映えがした。

家の中のどこかから、微かなカメラのシャッター音が聞こえた――おそらく、高橋涼がスマホのカメラで何かを撮っているのだろう。

そして即座に、私の顔は微笑もうとした。それが何を意味するかわかっていても、そうする自分が憎くても、顔の筋肉は自動的に動いた。

私は自分の身体の中に閉じ込められ、音に反応するよう犬のように躾けられていた。これを、三年間も。

私はバスルームのカウンターから、高橋涼の旅行用カメラ、小さなコンパクトカメラを手に取った。

カシャッ。

甘い微笑み。首の傾げ。輝く瞳。

「やめて」私は鏡の中の自分に囁いた。「クソみたいな笑顔はやめて」

カシャッ。

また別のポーズ、また別の自動的な反応。

私は泣きながら同時にポーズをとっていた。私の身体は、感じていることと、プログラムされたこととの間で引き裂かれていた。最も恐ろしいのは?真実を知ってさえ、カメラの音は心の奥底で、歪んだ一種の幸福感をいまだに感じさせていたことだ。

私は壊れていた。完全に、修復不可能なほどに。

そして明日も、私はきっとまた微笑んで、ポーズをとるのだろう。

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