第7章
川島沙也加視点
床から天井まである窓から、C市の陽光が差し込み、荷造りの途中のスーツケースに影を落としていた。私は機械的に服を畳んでいく。その一つ一つの動きは、自分でも予想していた以上に落ち着いていた。正直なところ、この冷静さには我ながら驚かされた。
高橋涼から贈られた高級品――エルメスのバッグ、カルティエの時計、それに私の趣味ではなかった派手な宝石類は、すべて意図的に置いてきた。
持っていくのは、自分の写真機材と、わずかな普段着だけ。これらこそが、本当に私のものだった。
化粧台の上、私はあの忌々しい婚約指輪を、簡素なメモの隣に置いた。
【高橋涼へ。考える時間が必要なの。...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章

10. 第10章


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