第8章

川島沙也加視点

この時間の紫雲大学音響学研究室は、墓場のように静まり返っていた。沈黙を破るのは、専門機材のかすかな駆動音だけだ。私は白衣をまとい、コンピューターの画面で踊る波形パターンを凝視していた。

音響工学の博士課程で過ごした三年間。ついに、それを実践する時が来たのだ。

パラメーターを調整し、様々なカメラのシャッター音の周波数データを分析ソフトに入力していく。キヤノン5D Mark IVのクリック音、ニコンD850のメカニカルなスナップ音、そしてあの忌々しいライカQ2――高橋涼が宝物のように愛用しているカメラの音。

「19.5ヘルツの超低周波音に4000ヘルツの歪みをミッ...

ログインして続きを読む