第9章

川島沙也加視点

国際病院の精神病棟は消毒液の匂いが鼻をついた。私は、高橋涼が車椅子で病室へ運ばれていくのを眺めていた。彼は憔悴しきって、目は虚ろだった――三年前の、あの自信に満ちた写真家の面影はどこにもない。

「患者は重度の幻聴と妄想観念を呈している」と、医師が看護師に囁いた。

高橋涼は必死に医師の白衣を掴んだ。

「信じてください!誰かが音を流して私を拷問してるんだ!」

看護師は優しく彼をなだめた。

「高橋さん、まずは休んでください。お薬が幻聴を和らげてくれますから」

私は廊下の端からその様子を観察していた。スタジオに仕掛けた私の音響兵器は、完璧に機能していた。携帯電...

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