契約獣に四肢を切断され三年間虐待された後、私は生き返った

契約獣に四肢を切断され三年間虐待された後、私は生き返った

渡り雨 · 完結 · 25.4k 文字

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紹介

一族には掟がある。成人の儀で、一人の獣人を選び契約を結ばなければならない。

藤宮司は、幼い頃に我が家に流れ着いた九尾の狐。私が世話をして育て、成人すると同時に伴侶の契りを交わした。

まさか、彼がとうの昔に姉と密通していたなんて。
彼はやがて一族の長の座を奪い、父を殺し、そして私を――手足を切り落として、地下室で生きながら嬲り殺した。

再び目を開けた時、目の前には期待に満ちた目での私を見つめる藤宮司がいた。
私は彼から視線を外し、隅で縮こまっている猫の獣人に歩み寄る。

そして、その子を抱きしめて言った。

「この子がいい」

チャプター 1

 引き裂かれるような激痛が、心臓から神経の末端まで駆け巡る。

 氷のように冷たい地下室の隅で、私は身を縮めていた。四肢の切断面は黒くかさぶたに覆われ、ただの肉塊となった胴体が、無様に床を這いずり回る。

 喉からは枯れた呻き声しか出ない。万の毒虫に心臓を食い荒らされるような苦痛に、私はただ死を願った。

「司……助けて……」

 私は藤宮司を見上げ、懇願する。

「助ける?」

 藤宮司が身をかがめる。かつて私が心ときめかせたその美貌は、今や嘲笑に歪んでいた。

「お前ごときが、何を言っている?」

 私の瞳が恐怖に収縮する。

 傍らでは、高嶺美雪が花が咲いたように笑い転げていた。その手には、たった今私に無理やり飲ませた毒薬の空き瓶が握られている。

「妹さんってば、本当に無邪気で可愛らしいこと。司が貴方に近づいたのはね、最初から高嶺家の財産が目当てだったのよ」

「そんな……嘘よ……」

「嘘なものか」

 司が立ち上がり、冷ややかな目で見下ろしてくる。

「あの甘い言葉を本気にしてたのか? お前を抱いている時だって、俺が考えていたのは美雪のことだけだ」

 美雪が司の胸に身を寄せる。二人は私の目の前で、見せつけるように深く口づけを交わした。

「そうそう、言い忘れていたけれど」

 美雪が顔を上げ、その瞳に悪意の光を宿らせる。

「お父様の死も、私たちが仕組んだことよ」

 美雪は一族の血縁ではなく、父が引き取った養女だった。父は彼女を実の娘のように慈しみ、決して冷遇せず、私に与えるものは美雪にも等しく与えていたはずだ。

「ふん、本当に平等をうたうなら、どうして家督を私に譲らなかったの! まあいいわ、もうあの老いぼれの指図を受ける必要もない。あの人は狼の獣人に食い殺されたもの。骨までしゃぶり尽くされてね!」

 あれは事故だと、狼が狂暴化したせいで父は逃げ遅れたのだと、そう思っていた。

 全ては私の過ちだ。三年前に藤宮司を契約獣に選ばなければ、高嶺一族がこんな末路を辿ることはなかったのに……。

 毒素が神経を侵食していく。やがて、私の意識は闇に溶けていった。

   ◇

 次に目を開けた時、視界に飛び込んできたのは桜華学園の契約の間に吊るされた、煌びやかなシャンデリアだった。

 私は三秒ほど呆然とし、それから自分の両手を見た。白くしなやかな指が五本、確かにそこにある。

 慌てて足に触れる。健康的で力強い感触に、思わず涙がこぼれそうになった。

「千夏様、いかがなさいました?」

 傍らに控えていたメイドが、恐る恐る声をかけてくる。

 顔を上げると、ホールの中央に巨大な横断幕が掲げられていた。

『桜華学園成人契約の儀』。

 これは……三年前?

 私は戻ってきたのだ。全てが狂い始めた、あの契約の日へ。

 心臓が早鐘を打っている。私は大きく深呼吸をし、無理やり冷静さを取り戻した。

 ホールには十数人の獣人が集まり、選ばれる時を待っていた。彼らは学園でも選りすぐりのエリートであり、誰もが高嶺家の跡取りである私に選ばれることを渇望している。

「千夏!」

 聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、高嶺美雪が優雅に歩み寄ってくるのが見えた。

 その精巧な作り物のような顔には、完璧な笑みが張り付いている。あの毒を盛る姿を見ていなければ、優しい姉だと信じて疑わなかっただろう。

「お姉様」

 私は無表情に応じた。

 美雪の目に一瞬不満の色がよぎったが、すぐに優しい顔に戻る。

「今日は貴女の晴れ舞台ね。緊張してる?」

「まあね」

「実はね……」

 美雪は声を潜め、親しげに身を寄せてきた。

「私は藤宮司がいいと思うの。彼は九尾の狐で戦闘力も申し分ないし、家柄もいい。何より……」

 彼女の瞳に、隠しきれない貪欲さが光る。

「貴方を愛しているもの」

 噴き出しそうになるのを必死で堪えた。

 愛? 財産のために私をダルマにしたあの男が?

「お姉様は、司を高く評価しているのね」

 私は美雪に向き直り、その目を真っ直ぐに見つめた。

「なら、お姉様が彼を選べばいいじゃない」

 美雪の笑顔が凍りついた。

「千夏、何を言っているの?」

「お姉様がそれほど司を気に入っているなら、お姉様が彼と契約すればいいと言ったのよ」

 私は一言一句、噛み締めるように繰り返した。

 少し離れた場所で、藤宮司の顔色が変わるのが見えた。

 獣人待機列の最前列に立つ彼は、長身で見栄えが良く、白い獣耳が陽光を浴びて輝いている。

 私の言葉を聞き、彼の瞳に不快感と……焦りの色が浮かんだ。

 心の中で冷ややかに笑う。

「千夏、今日はいったいどうしたの?」

 美雪は引きつった笑みを維持しようと必死だ。

「私はただのアドバイスのつもりで……どうしてそんな……」

「私は平気よ」

 彼女の言葉を遮る。

「かつてないほど、頭が冴えているわ」

 儀式の進行役である長老が壇上に上がり、銅鑼を打ち鳴らした。

「これより契約の儀を執り行う! 高嶺千夏様、生涯の伴侶をお選びください!」

 会場が静まり返る。

 獣人たちは一斉に背筋を伸ばし、期待に満ちた眼差しを向けてくる。

 司は自信満々に前へと歩み出た。私が彼を選ぶと信じて疑っていないのだ。過去三年間、彼は死に物狂いで私に取り入ってきた。甘い言葉、贈り物、情熱的な手紙……。

 私は立ち上がった。衆人環視の中、私の視線は司を通り越し、強靭なエリート獣人たちをも通り越し、ホールの隅で力なく咳き込んでいる影に注がれた。

「氷室透」

 はっきりと、その名を告げる。

 会場がどよめいた。

 氷室透は、隅で縮こまっていた猫の獣人だ。戦闘力など皆無に等しい。

 だが、それこそが私が求めていたものだ。私を傷つけることのできない存在。

 透は壁に寄りかかって咳をしていたが、自分の名を聞いて呆然としていた。その透き通ったアイスブルーの瞳は、信じられないという色に染まっている。

「氷室透。私の契約伴侶になってくれるかしら?」

 私は彼に向かって手を差し出した。

「千夏!」

 司が顔面蒼白で駆け寄ってくる。

「気でも狂ったのか!? よりによってあんな病人を! 自分の世話もできない奴に、どうやって君を守るって言うんだ!」

 私は冷ややかに彼を見下ろした。

「司。これは私の選択よ。貴方には関係ない」

「なっ……」

 司は歯ぎしりし、その瞳からは怒りの炎が噴き出しそうだった。

 透がよろめきながら歩み出てくる。震える手で、恐る恐る私の手を握り返した。

「ぼ、僕で……よろしいのですか、千夏様。誓います、命に代えても、貴女をお守りします」

 その声は細かったが、言葉の一つ一つに確固たる意志が宿っていた。

 私は透の純粋なアイスブルーの瞳を見つめながら、前世の記憶を反芻していた。地下室で、ガリガリに痩せた白猫が傷薬や食料を運んでくれたこと。自分の精血さえも私に与え、最後には司に皮を剥がされて死んだこと。

「信じているわ」

 私は透の手を強く握り返した。

 契約の儀が完了し、金色の光が私たちの間を駆け巡る。永遠の絆が結ばれた瞬間だった。

「上等だ! 実にいい気味だ!」

 突然、司が狂ったように笑い出した。その笑い声には深い侮蔑が込められている。

「千夏様が僕ごときをお気に召さないというなら、これ以上媚びへつらう必要もない」

 彼はくるりと踵を返すと、美雪の前で片膝をついた。

「高嶺美雪さん、僕の契約伴侶になってくれますか?」

 美雪の顔に一瞬勝ち誇ったような色が浮かんだが、すぐに驚いたような表情を作ってみせた。

「司……私……もちろん、喜んで!」

 私はその茶番劇を冷めた目で見つめていた。滑稽で仕方がない。

   ◇

 高嶺家の屋敷は桜華市の一等地にあり、広大な敷地と贅を尽くした内装を誇る。

 私の部屋は三階にあり、床から天井まである窓からは庭園の桜並木が一望できた。儀式を終えた透は、すぐにここへ連れてこられた。

「ご主人様」

 透は入り口で恭しく立ち止まり、部屋に入ろうとしない。

 その痩せ細った体を見ていると、胸が締め付けられるような思いがした。

「入って。これからはここが貴方の家よ」

 透はおずおずと足を踏み入れた。顔色は紙のように白く、唇にも血の気がない。体調は最悪のようだ。

「座って」

 ソファを指し示す。

 しかし透は首を横に振った。

「ご主人様と同じ目線に座るわけにはいきません」

「座りなさい」

 拒絶を許さない口調で告げる。

 透はびくりとして、ようやくソファの端に浅く腰掛けた。体は強張り、いつでも立ち上がれるように緊張している。

 私は引き出しから精巧な木箱を取り出した。中には様々な高価な薬草や漢方が詰められている。

「これは貴方のために用意させたものよ。滋養強壮に効くわ。今日から毎日飲んで。私が必ず貴方の病を治してみせる」

 透は目を丸くした。

「ご主人様……こ、こんな高価なものを……」

「貴方は私の契約伴侶よ。世話をするのは当然だわ」

 私は木箱を彼の手の中に押し込んだ。

「それに、貴方には強くなってもらわないといけないの」

「はい……!」

 透は木箱を強く抱きしめ、その瞳に決意の炎を宿らせた。

「ご期待は裏切りません、ご主人様。死に物狂いで強くなって、必ず貴女をお守りします!」

 窓の外で、桜の花びらが風に舞っている。まるで前世の砕け散った夢のように。

 だが今回、私はもう二度と誰にも自分を傷つけさせはしない。

 あの借りは、私の手で、一つ残らず返してもらう。

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その瞬間、彼は私を強く抱き寄せた。その身体は重厚で力強く、逃げることなど許さない。
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口づけを交わすたびに呼吸を奪われ、触れられるたびに、私はどうしようもなく彼に寄り添ってしまう。
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ある日、彼は私の手を執り、ゆっくりと距離を詰めると、耳元で低く囁いた。

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