彼の後悔に埋もれて

彼の後悔に埋もれて

大宮西幸 · 完結 · 18.3k 文字

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紹介

出産予定日のその日、夫のマッテオは私を氷点下十度の地下冷蔵庫に閉じ込めた。

トリーノ家の鉄の掟。最初に生まれた子供が、マフィア帝国のすべてを継承する。私と義姉のジェニファーは同時期に妊娠し、予定日はわずか一日違いだった。兄の子供を確実に先に誕生させるため、マッテオはこの狂気の決断を下した。

「兄貴とジェニファーの子供が先に生まれなきゃならない。これはお前が二人に負った借りだ!」彼は私の破水も激しい陣痛も無視し、冷酷に私を氷の牢獄へ突き落とした。

それだけでは足りず、彼らは私に分娩を遅らせる薬物を強制的に注射した。私は冷たいコンクリートの床に苦しみながら身を縮め、お腹の中の小さな命が少しずつ生気を失っていくのを感じながら、絶望の涙を流した。

「赤ちゃん、ごめんね……」

チャプター 1

ヴァレンティーナの視点

「離して! 産まれるのよ!」

 私は必死に廊下のドア枠にしがみついた。陣痛が下腹部をずたずたに引き裂いていく。だが、夫マッテオの腹心であるカルロは、無表情のまま私の指を一本ずつ剥がしていった。

「ボスの命令だ」

 彼は冷淡に言い放ち、私を地下の冷蔵室へと引きずっていく。

「低温環境下では分娩を遅らせることができる。ジェニファーが産み終わるまで待機しろ」

「待機……?」

 愕然として彼を睨みつける。太ももを伝って羊水が流れ落ちていくのが分かった。

「子供を産むのを待てと言うの?」

「ロレンツォ様の子供が先に産まれなければならない。それがファミリーの掟だ」

 カルロは私を強引に冷蔵室の入り口へと引き寄せた。

 ロレンツォはマッテオの亡き兄であり、トリーノ家の本来の跡継ぎだった男だ。

「正気なの!?」私は必死に抵抗した。「この子が凍え死んでしまうわ!」

「死にはしない。少し待つだけだ」

 カルロが分厚い鉄扉を押し開けると、刺すような冷気が瞬時に襲いかかった。

 地下の冷蔵室。鋼鉄の壁が青白い照明を反射している。血の生臭さとカビの臭いが空気に漂っている――ここはトリーノ家が裏切り者を処分する場所なのだ。

 カルロは乱暴に私を凍てつくコンクリートの床に突き飛ばし、即座に携帯電話を取り出してダイヤルした。

「女は冷蔵室に入れた」彼はスピーカーフォンにした。「破水したが、低温環境なら少しは時間を稼げるだろう」

「まだ騒いでいるのか?」

 電話の向こうから、マッテオの疲労の滲む声が聞こえた。

 騒いでいる? 私は目を見開いた。

「マッテオ!」私は携帯に向かって叫んだ。「私よ! 産まれるの!」

「冗談だろ? 今か?」彼は苛立ちを露わにした。「ジェニファーも間もなくなんだ。二時間くらい待てないのか」

「待てるわけないでしょう! 破水のタイミングなんてコントロールできないわ!」

「俺のベッドに這い上がってきた時は、随分とタイミングを見計らうのが上手かったじゃないか」彼は冷ややかに笑った。「今になって計算ができなくなったのか?」

 一年前のあの雨の夜が脳裏に蘇る――ロレンツォが不慮の事故で亡くなったという知らせ、泥酔したマッテオの激情……。

「私はただスープを届けただけ! あなたは酔っていて、私は何も――」

「スープだと?」マッテオが突然声を荒らげた。「てめえ、あのスープに薬を盛っただろう!」

 その怒号に、私の身体は震え上がった。

「あの夜、てめえの薬さえなければ!」彼の声は怒りに満ちていた。「ロレンツォ兄さんは、あんなことにはならなかった――」

「マッテオ……痛い……怖いよぉ……」

 突然、ジェニファーの苦しげな呻き声が電話越しに響き、彼の言葉を遮った。

 その瞬間、彼の声は慈愛に満ちたものに変わる。

「ジェニファー、俺はここにいる。深呼吸だ、耐えればすぐに終わる」

「赤ちゃん……私たちに会うのが待ちきれないみたい……」ジェニファーがか弱く笑う。

「きっと勇敢な子だ。父親と同じようにな」マッテオは優しく囁く。「よく頑張っているよ、ジェニファー」

 その甘い言葉の一つ一つが、鋭利な刃物となって私の心を切り裂いた。同じ妊婦でありながら、ジェニファーには限りない愛情が注がれ、私は……。

「マッテオ……」私は哀願した。「私にも医者が必要よ……私たちの子供だって助けが……」

「私たちの子供?」彼は鼻で笑った。「妊娠したことを感謝するんだな。でなきゃとっくに魚の餌だ。カルロ、例の薬を打て」

 通話が切れた。

 カルロは医療ケースから注射器を取り出した。中には乳白色の液体が入っている。

「な、何なの?」私は恐怖に震えながら針先を見つめた。

「分娩を遅らせる薬だ」彼は淡々と言った。「これで少しは大人しくなる」

「やめて!」私は必死に後ずさる。「そんなことをしたら、この子が死んでしまう!」

「死なない、先延ばしにするだけだ」カルロが私の腕を掴む。「お前は分かっていない。ロレンツォ様がこのファミリーにとってどんな意味を持っていたか。先代のトリーノ様が死ぬ間際に、素性も知れないお前と結婚しろとボスに無理強いしなければ……」

 針が血管に突き刺さり、冷たい薬液が体内に流れ込んでくる。

「ロレンツォ様は死なずに済んだんだ!」カルロは注射器をしまうと、嫌悪に満ちた眼差しを私に向けた。「トリーノ家が大打撃を受けることもなかった。お前は完全に疫病神なんだよ」

 薬の効果は覿面だった。規則的だった陣痛が乱れ、心臓を鷲掴みにされるような激痛に呼吸すらままならない。何より恐ろしいのは、胎動が弱まっていくのを感じることだった。

「私は……彼を害してなんて……」虚ろな声で弁解する。「カルロ、お願い……」

「これが報いだ」

 彼は冷ややかに立ち上がると、振り返りもせずに立ち去った。

 私は氷のような床の上で体を丸めた。薬液が毒蛇のように血管を駆け巡る。息をするたび、突き刺すような痛みが走る。

「赤ちゃん……」お腹を優しく撫で、涙が止めどなく溢れ出る。「諦めないで……ママはここにいるから……」

 胎動はますます微弱になり、小さな命が私からゆっくりと離れていくのが分かった。

 絶望に飲み込まれそうになったその時、再び鉄扉が開いた。

 かつかつとハイヒールの音を響かせ、一人の女が入ってくる――マッテオの妹、ソフィアだ。

 彼女は手に革の鞭を携え、私の方へと歩み寄ってくる。

「騒いでるんだって?」

 彼女は小首を傾げ、冷ややかな笑みを浮かべた。

「お兄ちゃんに頼まれたのよ。『大人しくする』ってどういうことか、たっぷりと教えてやれってね」

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