彼の息子のために母になることを諦めた私を、彼は彼女のために捨てた

彼の息子のために母になることを諦めた私を、彼は彼女のために捨てた

大宮西幸 · 完結 · 16.8k 文字

1.1k
トレンド
1.1k
閲覧数
6
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

結婚して六年、私は彼の「弟」を救うために骨髄を提供し、それが原因で一生子供を産めない体になった。

ところが結婚記念日のその日、彼は亡くなった元恋人の妹を家に連れて帰り、「彼女が白血病になったから」と言って、私に主寝室を譲るよう求めた。

六年間私が育ててきた子供は、私の鼻先を指差してこう言った。「あなたは家政婦よ、僕のお母さんじゃない」

私が離婚協議書にサインした時、彼らはまだ知らなかった——あの女の驚愕の嘘と、私がこれから奪い取ろうとしているすべてのことを。

チャプター 1

 結婚六年目。夫は私の反対を押し切り、亡き元カノの妹を家に連れ帰ってきた。

「千夏、絵梨の病状は深刻なんだ。家に住まわせることにした」

 私はうつむく。丹精込めて作った夕食の横に置かれたのは、白血病を告げる診断書だった。

 これが、夫――浩平から贈られた、結婚六周年のプレゼントというわけだ。

 私の顔色が優れないのを見て、絵梨は彼の胸に寄り添う。その声は、風が吹けば消えてしまいそうなほどか細かった。

「浩平、もういいよ。千夏さんは私のこと、歓迎してないみたいだし」

「それに、私だって先は長くないし……お姉ちゃんと同じ病気……もう放っておいて」

「絵梨、馬鹿なことを言うな。きっと良くなる」

 そう言って、浩平は私に向き直る。その瞳は氷のように冷たい。

「千夏、お前それでも人間か! 死にかけた人を一人も受け入れられないなんて。そんな冷血な人間が、諒太の母親として手本を示せると思ってるのか!」

 諒太――十歳になる息子は、父親の言葉を聞くや否やソファから飛び降りた。そして小さな拳を振り上げ、私の太腿を叩く。

「千夏! 絵梨お姉ちゃんを泊めないなら、もう口きいてやらないからな!」

 テーブルの上の夕食は完全に冷め切っていた。私の心と同じように。

 一方は六年間愛した男。もう一方は六年間育て上げ、自分の骨髄を提供してまで救った我が子。

 浩平が朝帰りばかりしていた日々、私にとって最後の希望だったのは諒太だ。

 昔は、彼も私にべったりとくっついてきたものだ。小さな手で私の首に抱きつき、耳元で「お母さん、大好き」と囁いてくれたのに。

 それが今では、別の女のために、私という「お母さん」を躊躇なく捨てると言う。

 怒りよりも失望が勝った瞬間だった。

 私は自嘲気味に笑うと、背を向けて部屋に戻ろうとする。だが、浩平に呼び止められた。

「千夏、今すぐ荷物をまとめろ。今日から客室を使え」

 私は足を止める。振り返りはしなかった。

「絵梨は病人だ。俺たち夫婦が一緒にいるところを見たら、死んだお姉さんを思い出して病状が悪化するかもしれない」

 彼はまるで「今日はいい天気だな」とでも言うような、平然とした口調だった。

 私は深く息を吐き、部屋に入ると震える手で馴染みの番号に発信した。

「里美、仕事に戻りたいの」

 受話器の向こうから、興奮した声が響く。

「本当!? 千夏、やっと目が覚めたのね!」

「家庭のためにキャリアを捨てるなんて、法曹界の損失以外の何物でもなかったわ! お帰りなさい、法廷の女王!」

 私は苦い笑みを浮かべて頷き、すぐさま来週の航空券を予約した。

 スマホをしまおうとしたその時、絵梨のSNSが更新されているのに気づいた。

 写真には、山のようなプレゼントを積んだカートを押す浩平と、その横を歩く諒太。そして、満面の笑みで諒太の手を握る絵梨が写っていた。

 キャプションにはこうある。

「今日はプレゼントいっぱい! 誰かさんが甘やかしてくれるの~」

 あの二人は、ショッピングモールを何より嫌っていたはずだ。私が買い物に行きたいと言えば、浩平は「時間の無駄だ」と眉をひそめ、諒太も「つまんない」と私の袖を引っ張っていたのに。

 行きたくなかったわけじゃない。ただ、彼らを心からその気にさせる相手が、私ではなかっただけだ。

 コメント欄には、浩平の友人である木村さんの書き込みがあった。

「浩平、こんなことして千夏ちゃん怒らないか? 愛想尽かされて逃げられるぞ!」

 浩平の返信は、たった一言。

「あいつにそんな度胸あるわけないだろ」

「一生愛する」という言葉を信じて仕事を辞め、諒太への骨髄移植で不妊症にまでなった私。六年間の専業主婦生活で、彼ら以外に何も持たないと思われている私は、涙がこぼれないように必死で天井を仰いだ。

 不意にドアが開き、浩平が入ってきた。手にはギフトバッグが提げられている。

「ほらよ。お前、昔ネックレス集めるの好きだったろ」

 彼は施しでもするかのように、私に箱を突き出した。

 箱を開けると、そこには古臭いデザインの安っぽいシルバーネックレスが横たわっていた。そして箱の内側には、くっきりと印字された「景品」の二文字。

……ネックレスさえ、買い物のオマケだったのだ。

 絵梨には山のようなプレゼント。私への結婚記念日の贈り物は、オマケの景品。

 私は腕を振り上げ、箱ごとゴミ箱に投げ捨てた。

 浩平が激昂し、私の手首を掴む。

「千夏、何のつもりだ!」

「ゴミ捨てよ」

 私は彼を見据え、静かに答える。

「せっかくの俺の好意を、なんて態度だ!」怒りで彼の顔が歪む。「今日は結婚記念日だからって、わざわざ持ってきてやったんだぞ! 恩知らずにも程がある!」

「ええ、私は恩知らずよ。言っておくけど、そんな胸糞悪いもの、何度持ってこようが全部捨てるから」

最新チャプター

おすすめ 😍

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

397.3k 閲覧数 · 連載中 · 七海
人生最良の日になるはずだった、結婚式当日。
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。

しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。

吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。

けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。

「こんな汚らわしい男は捨ててやる」

私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?
隠された天才:裏の顔が多すぎて、気づけば世界のトップを震撼させていた件

隠された天才:裏の顔が多すぎて、気づけば世界のトップを震撼させていた件

35.2k 閲覧数 · 連載中 · たけの
私の名前は江川莉奈。

育ての親の一家に家を追い出されたあの日、私は微笑みを浮かべながら、奴らが施しとしてよこした金をゴミ箱へと投げ捨てた。

誰も想像すらできないだろう。この私が、数々の名門貴族や権力者たちが大金を積んで列をなし、首を長くして診察を待つ伝説の名医——【暁】だなんて。

私が時価総額数十億ドルのファッション帝国を裏で支配していることも、ウォール街の株価をたった一回の取引で大暴落させられることも、誰も知らない。私はその正体を、この平凡で冴えない素顔の裏にすべて隠し持っていた。

さらに劇的なことに、私の実の親はこの街で頂点に君臨する最高峰の大富豪だった。

そして私の婚約者——すでに顔を合わせているにもかかわらず、その正体を知らなかったあの男こそ、この街の誰もが名前を聞くだけで震え上がる、ビジネス界の冷酷な死神:梅原晴琉だったのだ。

ある日、彼は私の手を執り、ゆっくりと距離を詰めると、耳元で低く囁いた。

「俺のこの鼓動、今なら感じられるか?」

私は至って真面目な顔で彼の胸に手を当て、大真面目にこう返した。

「心拍数は確かに少し高めですが、非常に健康的です。心配ありませんよ」

彼は一瞬呆気にとられ、それからふっと吹き出した。その瞬間の彼の笑顔に、私の心臓もなぜかドクンと跳ねた。それは、自分自身でも説明のつかない初めての衝動だった。

だが、彼が私の真実に一歩ずつ近づくにつれ……私の心は揺らぎ始めている。自分の最後の秘密を、あとどれくらい隠し通せるのだろうか。

外されるはずのなかった仮面——。だが、あの人が執拗にその霧を剥ぎ取ろうとするとき、私は一体どこへ向かえばいいのだろう?
追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです

追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです

83.4k 閲覧数 · 連載中 · 星埜雪奈
家族に捨てられ、私はようやく偽りの温もりを切り捨てた。
けれど、私の本質を隠し通すことは誰にもできない。
隠された私の正体は、この国で最も裕福な一族の継承者。
かつての家族が私を見失っている間に、私は全ての支配者となり、この街の頂点に君臨する男の視線を独占する。
彼が私に捧げる愛は、ただの寵愛ではない――世界を敵に回してでも守り抜く、狂おしいまでの執着だ。
妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

556k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
鈴木七海は、中村健に好きな人がいることをずっと知っていた。それでも、彼との結婚を選んだ。
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
社長夫人の家族調教

社長夫人の家族調教

10.1k 閲覧数 · 完結 · Alisa
(性的で刺激の強い内容を多く含みます。未成年者の閲覧は禁止です!!!)
アメリアは幼いころから祖母に育てられてきた。ある日突然、マルティネス家の人間が家の扉を叩き、彼女こそ長年行方不明だった娘だと言い張った。

マルティネス家に連れ戻されたアメリアは、身体に障害があるという婚約者まで与えられることになった。

その夜、アメリアはウィリアムの健常な下半身に短剣を押し当てた。「障害者のふりをして私に近づいた……目的は何?」

ウィリアムは、アメリアのスカートの下に突きつけられた冷たい銃口を顎で示した。「利害は一致してる。片がついたら一億やる」

数か月後、アメリアはようやく理解した。ウィリアムの言う「一億」とは、日に何度も求め続け、彼女が妊娠するまで終わらせない――という意味だったのだ。
死に戻り真令嬢の復讐 ~偽りの家族も血の兄も要りません

死に戻り真令嬢の復讐 ~偽りの家族も血の兄も要りません

39.9k 閲覧数 · 連載中 · 凛
前世の橘結衣は、兄たちに尽くし続けた。どんな理不尽にも耐え、健気に笑顔を向け続けた結衣を待っていたのは――お披露目パーティーでの無残な死だった。

破滅を経て死に戻った結衣は、人が変わったように冷徹になる。もう二度と、あの愚かな兄たちのために心を痛めたりはしない。

しかし、冷遇し始めた途端、兄たちの態度が一変する。

「いい加減、そんな冷たい態度を取るな」と迫る社長の長男。

「俺の誤解だったんだ……」と苦悩する医師の次男。

「頼む、やり直させてくれ!」とプライドを捨てて乞うトップスターの三男。

「俺の妹はお前だけだ!」と泣きじゃくる不良の四男。

だが、結衣の答えはひとつだけ。

「みんな、失せて」

復讐と無関心を胸に、彼女は一人の男性の手を取った。

「宮本景太。今日からあなただけが、私のたった一人の『お兄ちゃん』よ」

――しかし、彼女の本当の身分が明かされた時、今度は血縁関係のある「実の兄たち」が押しかけてきて――!?

「『唯一の兄』だと……? じゃあ、俺たちはお前の何なんだ!?」
藤原社長の華麗な元妻

藤原社長の華麗な元妻

46.5k 閲覧数 · 連載中 · 文机硯
実は離婚も悪いことばかりではありません。
私のように、離婚後に実家に帰って億万の財産を相続できるのですから!
そして、まさにその億万の財産を相続しようとしたとき、厚かましい前夫がまた現れて、土下座して復縁を懇願してきたのです…
離婚後、奥さんのマスクが外れた

離婚後、奥さんのマスクが外れた

336.9k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
結婚して2年後、佐藤悟は突然離婚を申し立てた。
彼は言った。「彼女が戻ってきた。離婚しよう。君が欲しいものは何でもあげる。」
結婚して2年後、彼女はもはや彼が自分を愛していない現実を無視できなくなり、過去の関係が感情的な苦痛を引き起こすと、現在の関係に影響を与えることが明らかになった。

山本希は口論を避け、このカップルを祝福することを選び、自分の条件を提示した。
「あなたの最も高価な限定版スポーツカーが欲しい。」
「いいよ。」
「郊外の別荘も。」
「わかった。」
「結婚してからの2年間に得た数十億ドルを分け合うこと。」
「?」
転生して絶縁したら、元家族は破滅に

転生して絶縁したら、元家族は破滅に

40.2k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
名門古川家の生まれの娘・古川朱那は、前世、父・古川邦夫と三人の兄(礼和、礼希、礼人)が養妹・周防天華を無条件に贔屓し、天華の陰険な陥れに遭い、理不尽に死んだ。
22 歳、天華に陥れられた日に生まれ変わった朱那は、過去の卑屈さを捨て、天華の悪事を暴き、偏心な家族に毅然と立ち向かう。芸能界で演技の才能を開花させ、自らの人生を切り開くため、全力で逆襲する。
私が囲っている億万長者

私が囲っている億万長者

13.5k 閲覧数 · 連載中 · ほしの ちなつ
私はただ、心の痛みを紛らわせたかっただけ。

彼は息を呑むほど美しく、落ちぶれていた。夫の裏切りがもたらした傷が完全に癒えるまで、彼をそばに置いておくつもりだった。

お金で彼の付き添いを買い、すべてのルールを私が決め、すべてを完全に掌握しているつもりだった。

けれど、私の隣で横たわるこの男の正体は、彼が語ったものとはまるで違っていた。

魅惑的な笑顔と抗いがたい容姿の下に隠されていたのは、仇敵から身を隠す億万長者の素顔だった。

今や彼は、私の生活に、私のベッドに、そして私の心に――完全に絡みついている。

身を引くことは、彼のそばにいることよりも、もっと危険かもしれない。
令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

831.7k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
天才陰陽師だった御影星奈は、かつて恋愛脳のどん底に落ち、愛する男のために七年もの間、辱めに耐え続けてきた。しかしついに、ある日はっと我に返る。
「瀬央千弥、離婚して」
周りの連中はこぞって彼女を嘲笑った。あの瀬央様がいなくなったら、御影星奈は惨めな人生を送るに決まっていると。
ところが実際は――
財閥の名家がこぞって彼女を賓客として招き入れ、トップ俳優や女優が熱狂的なファンに。さらに四人の、並々ならぬ経歴を持つ兄弟子たちまで現れて……。
実家の御影家は後悔し、養女を追い出してまで彼女を迎え入れようとする。
そして元夫も、悔恨の表情で彼女を見つめ、「許してくれ」と懇願してきた。
御影星奈は少し眉を上げ、冷笑いを浮かべて言った。
「今の私に、あなたたちが手が届くと思う?」
――もう、私とあなたたちは釣り合わないのよ!
離婚した妻の激しいつわり――彼女は妊娠を隠したまま、去っていった

離婚した妻の激しいつわり――彼女は妊娠を隠したまま、去っていった

12.1k 閲覧数 · 連載中 · ユイ
夫から離婚届を突きつけられたその時、私は妊娠を知った。

彼は冷酷極まりない目で私を見下ろし、「お前なんか、俺にふさわしくない。子供を堕ろして、さっさと出て行け!」と言い放ったのだ。

そして――彼が「運命の女」と盛大な結婚式を挙げたその夜、私は凄惨な交通事故に遭い、命を落とした。

私の死亡診断書を手にした時になって初めて、彼は気づいたのだ。私への愛が、すでに自分の魂にまで深く刻み込まれていたことに。

数年後。私は別の人間として、双子の我が子を連れて戻ってきた。しかし、あの狂気に満ちた男に再び追い詰められてしまう。

「あなたのことは存じ上げません。身の程をわきまえてください」
私は冷たく突き放した。

彼は私を壁に押しつけ、声を震わせながらこう言った。
「……そうか? なら教えてくれ。なぜその子供たちに、俺の血が流れているんだ?」