私の愛は死んでいる

私の愛は死んでいる

拓海86 · 完結 · 31.7k 文字

279
トレンド
879
閲覧数
173
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

今日、私は他の誰かの妻になるはずだった。

祭壇の前で優しい婚約者と向き合いながら、心にもない「誓います」という言葉を口にするのに必死だった。三年間、私はもう二度と帰ってこない人――初恋の人を忘れようとしてきた。

軍は彼が戦死したと言った。涙が枯れるまで泣いて、やり直すことを覚えた。

結婚式の途中で、あの見慣れたシルエットを見るまでは。

「彼よ!絶対に彼に違いない!」私は友人に向かって必死に叫んだ。

「お疲れ様」友人は心配そうに私を見つめた。「結婚式のストレスで幻覚を見ているのかも…」

「幻覚なんかじゃない!」

だから私は人生で一番狂った行動に出た。すべての参列者の前で、血に染まったウェディングドレスを着たまま、教会から彼を追いかけて飛び出した。すべてを失うことになっても、真実を見つけなければならなかった。

チャプター 1

絵里視点

 教会のステンドグラスを透した陽光が祭壇に降り注ぎ、純白のウェディングドレスに色とりどりの影を落としていた。私はそこで悟と向き合い、完璧な花嫁の笑みを必死に浮かべている。

『こんなこと、望んでない』

 参列者たちの視線が、一身に私へと注がれている。誰もがこの「完璧な」結婚式を見届けようと、期待に満ちた目をしていた。母は最前列で満足げに涙ぐんでいる。ようやく娘を「ふさわしい」相手に嫁がせることができたのだから。医者で、安定していて、将来有望な男性に。

『でも、愛しているのは彼じゃない』

 悟は紺のスーツを着ていた、その広い肩幅はジャケットを完璧に着こなしていた。彼の瞳には純粋な愛が込められていて、私に微笑みかけてくれる。この一年、彼は辛抱強く、私が心の傷から立ち直るのを待ってくれていた。。

『この人を愛せたら、どんなにいいだろう』

 私の唇はこわばったまま弧を描き、心は氷のように冷たく閉ざされている。この結婚は、初めから両親が決めたことだった。まるで精巧な磁器の人形のようにここに立たされ、信じてもいない誓いの言葉を口にするのを待っているだけだ。

 牧師の厳かな声が教会に響いた。「水原絵里、あなたは星野悟をあなたの夫として迎えることを誓いますかし……」

 呼吸が速くなる。胸が締め付けられ、何か重いものに押し潰されそうだった。

『無理。私には、やっぱり無理だ』

「……健やかな時も、病める時も、豊かな時も、貧しい時も……」

 その一言一言が、杭のように私の胸に打ち付けられる。私はあの人を想った。もう二度と帰ってはこない、あの人のことを。

「……生涯にわたって愛し続けることを誓いますか?」

「わ、私は……」

 自分の心に背いて「はい、誓います」と答えようとした、その瞬間。視界の端で、教会の後方に動く気配を捉えた。その動きに、私の世界は一瞬で凍りついた。

 まさか。ありえない。

 私は顔を上げ、白いベールの向こう、後方の席に目を凝らした。一人の男性が、私に背を向け、ゆっくりと脇の出口へと歩いていく。

『あの、後ろ姿……』

 心臓が止まった。世界が激しく回転し始める。

『嘘。そんなはずがない』

 手からブーケが滑り落ち、白い薔薇が床に散らばった。

「絵里?」悟の心配そうな声が届く。

 でも、もう何も聞こえなかった。私の世界には、消えていくあの後ろ姿しか存在しなかった。三年間、この三年間、数えきれないほど夢に見てきた後ろ姿。

『和也だ。間違いなく、彼だ』

「そんな……」私は震える声で呟いた。「ありえない……」

 参列者たちがざわめき始め、囁きが波のように広がる。驚愕の視線を感じたが、すべてが霞んで見えた。

『今、追いかけなければ、一生後悔する』

 私はブーケを投げ捨て、ドレスの裾を持ち上げると、後方へと駆け出した。

「絵里! 何を......」悟が驚愕に叫ぶ。

 大理石の床にハイヒールの音が性急に響き、純白のトレーンが翻る。参列者たちの息を呑む音、椅子が倒れる音、誰かがスマートフォンを取り出して撮影を始める気配。

『どうでもいい。もう、何もかも』

 教会を飛び出すと、傾きかけた太陽の光が目に突き刺さった。駐車場からは、数台の車が走り去っていくところだった。

「待って!」私は駐車場に向かって叫んだ。「お願い、待って!」

 しかし、返ってきたのは自分の声の反響と、遠ざかるエンジンの音だけだった。

 ハイヒールを蹴り飛ばし、裸足でアスファルトの上を走った。鋭い小石が足の裏に食い込んだが、痛みは感じない。ただ必死に捜す。涙で視界が滲んでいく。

『どこ? どこにいるの?』

「和也!」私はヒステリックに叫んだ。「和也、本当にあなたなら、私を置いていかないで!」

 その時、出口でゆっくりと走り去ろうとするタクシーが目に留まった。窓にはぼんやりとした人影が見えたが、距離が遠すぎてはっきりとは見えない。

『和也なの?』

「いや! 行かないで!」夢中でスパートをかけたが、引きずっていたドレスのトレーンが足に絡みついた。

 アスファルトに激しく叩きつけられた。膝と手のひらがざらついた地面に擦られ、焼けつくような痛みが走る。ウェディングドレスに血が滲んだが、構わずにもがき、追いすがろうとした。

 タクシーはすでに交通の流れに合流し、夕日の中に完全に消えてしまった。

 私は駐車場の真ん中で膝から崩れ落ち、世界がガラガラと崩壊していくのを感じた。

『見失った。また、彼を失ってしまった』

 深い絶望が心を覆い、私は両手で顔を隠して泣いた。胸の奥が痛み、息をするのもつらかった。

「絵里!」親友の中村美咲が、悟を伴って駆け寄ってきた。

 先に駆けつけた美咲は、私の怪我を見て息を呑み、私を抱きしめた。「大変、血が出てるじゃない! 一体どうしたの?」

「彼よ!」私は彼女の腕を掴んだ。「和也なの! 彼が戻ってきたの! 生きてたのよ!」

 美咲は衝撃に目を見開き、悟の瞳も大きく見開かれた。

「見た?」私は必死に彼女を揺さぶり、そして悟の方を向いた。「さっきの男の人? あのタクシー?」

 美咲は困惑したようにあたりを見回し、首を振った。「絵里、私は何も見てないけど……」その声には心配の色が滲んでいた。「ここには誰もいないわよ」

「違う!」私は叫んだ。「和也なの! 私は見たの! タクシーに乗ってた! 帰ってきたのよ!」

 悟が屈み込み、私の怪我を確かめる。その表情は複雑だった。心配と、何か重いものを背負ったような苦悩が入り混じっていた。

「見たの」私はしゃがれた震える声で訴えた。「おかしいって思うかもしれないけど、本当に見たの。あの後ろ姿……和也だった。彼が帰ってきたのよ!」

 一時間後、私たちはホテルの個室にいた。私はソファにぐったりと座り、破れたウェディングドレスが床に広がっている。医者が傷の手当てをしてくれたが、心の痛みに効く薬はない。美咲が水を差し出してくれるが、私の手はまだ震えていた。

 結婚式は完全に台無しになった。参列者は皆帰ってしまった。同情するように首を振る人もいれば、取り乱した花嫁の噂話をする人もいた。

 でも、そんなことはどうでもよかった。

「絵里」悟が向かいに座り、真剣な表情で言った。「君は本当に、さっき見たのが和也だと信じているのか?」

「確信してる」私は頷き、かすれた声で答えた。「正気じゃないって聞こえるでしょうけど、私にはわかるの。あの後ろ姿、あの懐かしい感じ……」

「絵里、ねえ」美咲が私の手を優しく撫でた。「結婚式のストレスで、幻覚でも見たんじゃないの……?」

「幻覚なんかじゃない!」私は彼女の言葉を遮り、再び涙を流した。「和也だったの! 絶対に彼よ! 帰ってきたの!」

 長い沈黙の後、悟さんは深く息を吸った。「君が、彼を見たと確信しているのなら……」

 彼は言葉を切り、複雑な目で私を見つめた。

「でも、和也は死んだはずだ……違うか?」

最新チャプター

おすすめ 😍

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

389.7k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
鈴木七海は、中村健に好きな人がいることをずっと知っていた。それでも、彼との結婚を選んだ。
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
双子の秘密

双子の秘密

34.2k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
冷たい契約結婚を3年間経て、一夜の情事の後、彼女は無慈悲にも彼と離婚しました。彼の目には自分がずっと悪役だったことを悟り、彼女は去ることを選びましたが、三つ子を妊娠していることを知りました。しかし、子供たちの誕生後、次男の謎めいた失踪は消えることのない傷跡を残しました。

5年後、彼女は子供たちを連れて戻ってきましたが、再び彼と出会ってしまいます。長男は彼の傍にいた少年が、失踪した弟だと気付きました。血のつながった兄弟は身分を交換し、誇り高きCEOである父親が母の愛を取り戻すための計画を立てたのです。
AV撮影ガイド

AV撮影ガイド

22.1k 閲覧数 · 連載中 · 佐藤製作所
華やかな外見の下に、数えきれないほど知られざる物語が隠されている。佐藤橋、普通の女の子が、偶然の出来事によってAVに足を踏み入れた。様々な男優と出会い、そこからどんな興味深い出来事が起こるのだろうか?
令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

654.7k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
天才陰陽師だった御影星奈は、かつて恋愛脳のどん底に落ち、愛する男のために七年もの間、辱めに耐え続けてきた。しかしついに、ある日はっと我に返る。
「瀬央千弥、離婚して」
周りの連中はこぞって彼女を嘲笑った。あの瀬央様がいなくなったら、御影星奈は惨めな人生を送るに決まっていると。
ところが実際は――
財閥の名家がこぞって彼女を賓客として招き入れ、トップ俳優や女優が熱狂的なファンに。さらに四人の、並々ならぬ経歴を持つ兄弟子たちまで現れて……。
実家の御影家は後悔し、養女を追い出してまで彼女を迎え入れようとする。
そして元夫も、悔恨の表情で彼女を見つめ、「許してくれ」と懇願してきた。
御影星奈は少し眉を上げ、冷笑いを浮かべて言った。
「今の私に、あなたたちが手が届くと思う?」
――もう、私とあなたたちは釣り合わないのよ!
ブサイクな男と結婚?ありえない

ブサイクな男と結婚?ありえない

97.5k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
意地悪な義理の姉が、私の兄の命を人質に取り、噂では言い表せないほど醜い男との結婚を強要してきました。私には選択の余地がありませんでした。

しかし、結婚後、その男は決して醜くなどなく、それどころか、ハンサムで魅力的で、しかも億万長者だったことが分かったのです!
余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

26.5k 閲覧数 · 連載中 · 七海
結婚して5年、夫とは円満だと思っていた。
しかし、運命は残酷だ。

病院で「白血病」という絶望的な診断を受けたその日。
震える足で帰宅した私の目に飛び込んできたのは、夫の裏切りの証拠だった。

私たちの神聖な寝室。
そのベッドの上には、無惨に引き裂かれたレースの下着がわざとらしく残されていたのだ。

それは明らかに、夫の愛人からの宣戦布告。
「あなたはもういらない」と嘲笑うかのような、残酷なマウントだった。

命の期限を突きつけられた日に、愛まで失った私。
絶望の淵で、私はある決断を下す。
追放された偽物の娘、その正体は最強でした

追放された偽物の娘、その正体は最強でした

31.9k 閲覧数 · 連載中 · ゲゲゲ
「本物の娘が見つかった。お前はもう用済みだ」
あの子が現れたその日、私は『偽物の娘』として家を追い出された。
渡されたのは、わずかな小銭と地方行きの片道切符だけ。
さらに婚約者は私をゴミのように捨て、その日のうちに『本物』であるあの子にプロポーズした。

……上等じゃない。せいぜい勝った気でいればいいわ。
だって彼らは、私の【本当の顔】を何一つ知らないのだから。

名門病院が見放した命を救う『天才外科医』。
オークションで数億円の値を叩き出す『伝説の画家』。
裏社会の闘技場で無敗を誇る『影の女王』。
そして――彼らの全財産すら小銭に思えるほどの『真の巨大財閥の後継者』であることを。

今さら元婚約者が土下座で許しを請おうと、本物の娘が嫉妬で狂いそうになろうと、もう遅い。
かつて私に婚約破棄の書類を叩きつけた冷酷で傲慢なCEOでさえ、今や何かに取り憑かれたように私を追い回し、「もう一度だけチャンスをくれ」とすがりついてくる始末。

私を捨てて、自分たちの人生を『アップグレード』したつもり?
笑わせないで。最初から、圧倒的に上の存在だったのは私のほうよ。
溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

235.5k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
原口家に取り違えられた本物のお嬢様・原田麻友は、ようやく本家の原田家に戻された。
──が、彼女は社交界に背を向け、「配信者」として自由気ままに活動を始める。
江城市の上流社会はこぞって彼女の失敗を待ち構えていた。
だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
「マスター、俺の命を救ってくれ!」──某財閥の若社長
「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」
本物令嬢の正体がばれました

本物令嬢の正体がばれました

40.2k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
新谷南は新谷家で二十年も育てられたのに、本当の娘が戻ってきた途端、あっさり家を追い出された。

デザイン部のディレクターの席? 本当の娘へ。
何千万円もの価値がある婚約話? 本当の娘へ。

会社中の人間が、彼女という「野良扱いの娘」がどう転げ落ちていくか、笑いものにしようと様子をうかがっていた。

そんなある日、世界限定二十台の高級バイクが会社の前に止まる。降りてきた不良っぽいイケメンが言った。

「妹、兄貴と一緒に帰るぞ」

新谷家の人間「……は?」

そのあとで彼らはようやく知ることになる。

彼女こそ、国内外の美術館の館長たちが面会待ちの列を作る「南先生」と呼ばれるアーティストであり、
新谷グループの全受賞特許の名義人であり、
さらに、伝説の「国家並みの資産を持つ」と噂される周防家の、本当の長女だということを。

大手財閥の若き当主は、封印していた婚約書を取り出し、薄く唇を吊り上げる。

「なるほど。俺の本当の婚約者は、君だったわけか」
最強ベビーと難攻不落のママ

最強ベビーと難攻不落のママ

19.5k 閲覧数 · 連載中 · 彩月遥
母親が再婚したため、田中春奈はずっと自分が家の中で異質な存在だと感じており、義父や姉との関係も良くなかった。
しかし、思いもよらない策略による一夜の過ちで、田中春奈は家を追い出され、故郷を離れて海外で学業を続けることになった。
その間、彼女はあの正体不明の男性の子を妊娠していることに気づく。
迷った末、彼女は子どもを産むことを決意した。
5年後、故郷に戻った彼女は江口匠海と出会い、次第に彼に惹かれていく。
しかし、ある事故をきっかけに、あのときの男性が彼であったことを知るのだった。
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

271.9k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
今さら私の墓前で悔いるな

今さら私の墓前で悔いるな

37.9k 閲覧数 · 連載中 · 神奈木
あの頃、私はまだ木村家の長女だった。
学校は私にとって、遊び場が変わっただけのようなものだった。
けれど、私は次第に気づいていった。どの授業でも一番前の席には、いつも同じ真面目な男子学生が座っていることに。
そして、いつも学校の一等奨学金が、同じ名前の生徒に贈られることに。山本宏樹。
いつからか、私は彼の後を追いかけるようになっていた。
大学の卒業式で、山本宏樹は奨学金を得た優秀な卒業生だった。
彼は卒業生代表の挨拶の場で、私が彼の恋人だと公言し、全校生徒数万人の前でプロポーズしてくれた。
あの頃、彼は前途有望な若き社長で、卒業前からすでに自分の会社を立ち上げていた。
一方の私は、骨肉腫だと診断されたばかりで、明日の太陽を見ることさえ贅沢な望みだった。
私は彼のプロポーズを断り、それから治療のために海外へ渡った。
しかし誰もが、私が貧乏な若者である彼を見下し、金持ちの御曹司に乗り換えて海外へ行ったのだと思っていた。
帰国後、彼は私に五百万円を投げつけ、彼と結婚するように言った。