夫の愛人に骨髄を提供した私

夫の愛人に骨髄を提供した私

大宮西幸 · 完結 · 16.0k 文字

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紹介

私はRedditで一つの投稿を見つけた。「緊急!妻に愛人への骨髄提供を説得する方法は?」
冷笑しながら返信を打った。「そんな男は地獄に落ちろ」
送信ボタンを押した瞬間、夫が帰宅した。彼は私の手を握り、震え声で言った。「君が白血病になった……でも大丈夫、ドナーが見つかったから」
私は彼の震える右まぶたを見つめた——それは彼が嘘をつく時の癖だった。
ふと投稿の下にあった最も悪質なアドバイスを思い出した。「奥さんを騙して、彼女が患者だと言えばいい」
本当に現実は小説より奇なりだった。
彼は私の骨髄を、他の誰かを救うために欲しがっていたのだ。
その愛人の顔を実際に見るまでは、私の世界は完全に崩壊した。
まさか夫の愛人がその人だったなんて、想像もしていなかった!

チャプター 1

 ある投稿が目に留まった。

 Redditの「人間関係のアドバイス」板だ。そのタイトルは、まるで血の滲む傷口のように目に飛び込んでくる。

「緊急! 妻を説得して愛人に骨髄を提供させるには?」

 投稿者のIDは文字化けのような意味不明な羅列だが、その文面は切実さに満ちていた。彼の「ミューズ」が急性白血病を患い、妻の骨髄が奇跡的に完全適合したという。あの娘こそが創作の源泉であり、彼女なしでは自分の人生は枯れ果ててしまう、と。

 コメント欄は炎上していた。

「人殺し」

「奥さんは今すぐ離婚してあんたを訴えるべきだ」

「よくもまあ、そこまで恥知らずになれるな」

 だがスクロールしていくと、七、八件ほど真剣に策を弄するコメントが紛れていた。

「AlphaMale_007」というアカウントがこう書き込んでいる。

「妻のほうが白血病になったと告げるんだ。自分がドナーではなく、提供を受ける側だと思い込ませればいい」

 指先が冷たくなるのを感じながら、私は返信を打ち込んだ。

「そんな男は地獄へ落ちろ。奥さんがすべきなのは骨髄提供じゃない、通報よ」

 送信ボタンを押した瞬間、玄関で鍵の回る音がした。

 エドワードが帰ってきたのだ。

 手にはファイルを持ち、白いシャツの袖を肘まで捲り上げている。かつて私が一目惚れしたその顔には、今まで見たこともないほど深刻な色が浮かんでいた。

「イヴェット」

 彼は私の前まで歩み寄ると、絨毯の上に片膝をつき、私の手を握りしめた。

「検査の結果が出たよ」

「どうだったの?」と私は訊く。

「急性白血病だ」

 その言葉を口にする彼の声は震えていた。

「すぐに骨髄移植が必要になる」

 私は口を開きかけたが、声にならなかった。

「でも、怖がらなくていい」

 エドワードは指の関節が白くなるほど強く私の手を握る。

「完全に適合するドナーが見つかったんだ。相手も同意してくれている。移植は三日後だ」

 三日? そんなに早く?

「ドナーって、誰?」

 エドワードは私の視線から逃げるように立ち上がり、酒の棚へと向かった。

「二十七歳の女性だよ」

 背中を向けたまま彼は言った。

「自ら助けたいと申し出てくれたんだ」

 渡されたグラスを受け取る私の脳裏で、あのRedditの投稿がウイルスのように増殖していく。愛人、骨髄の一致。

 すべてのピースが、音を立てて嵌まっていくようだった。

「どうして彼女は私を助けてくれるの?」

 私はエドワードの目をじっと見つめた。

「赤の他人のために、どうしてそこまでしてくれるの?」

 エドワードは私の隣に腰を下ろし、頬に手を添えた。

「お母さんを白血病で亡くされたそうだ」

 まるで詩を朗読するかのような、甘く優しい響き。

「他の誰にも同じ苦しみを味わわせたくないんだって」

 嘘だ。

 過去七年間の記憶が、早回しの映画のように脳裏を駆け巡る。エドワード・ストーン。ニューヨークで最も注目される若手建築家。私へのプロポーズのためにエンパイア・ステート・ビルのレストランをフロアごと貸し切った男。父の葬儀で私の手を握り、「一生、お父さんの代わりに君を愛し続ける」と誓ってくれた人。去年私が手術で入院した時、三日三晩付きっきりで看病してくれて、最後には疲労で病室の前で倒れてしまった人。

 そんな彼が、浮気などするはずがない。

 だが、Redditのコメント欄にあった最悪の助言が蘇る。

「妻のほうが白血病になったと告げるんだ。自分がドナーではなく、提供を受ける側だと思い込ませればいい」

 事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。

「その人に会える?」

 私はグラスを置いた。

「だって、命の恩人でしょう」

 一瞬、エドワードの表情が凍りついた。

「手術前だから安静が必要なんだ」

 彼は微笑んだが、その瞳はまったく笑っていなかった。

「手術が終わったら、必ず会えるように手配するよ」

 嘘をつく時、彼の右のまつ毛がかすかに震える。

 この秘密を知っているのは私だけだ。

「わかった」と私は言った。「あなたの言う通りにする」

 エドワードは明らかに安堵の息を漏らした。私の肩を抱き寄せ、その腕の中に閉じ込める。

「大丈夫だよ、イヴェット」

 彼は耳元で囁く。

「俺が保証する」

 私はエドワードの胸に寄りかかり、瞳を閉じた。

 あの投稿主は彼だ。

 私の骨髄を奪い、愛人を救おうとしている。

 一体、その女は何者なのか。

 ポケットの中でエドワードの携帯が震えた。彼は私を離し、画面を一瞥すると顔色を変える。

「会社で緊急会議が入った」

 急いで私の頬にキスした。

「もう少し寝ておいで。夜には戻るから」

 扉が閉まる音がした。

 次第に白んでいく光の中で、私はスマホの画面をスワイプした。Redditのページは開かれたままだ。「地獄へ落ちろ」という私の書き込みの下に、一件の返信がついている。

 発信元は、あの意味不明な文字列のIDだ。

「アドバイスをありがとう。でも君は真実の愛を経験したことがないから、わからないんだよ」

 画面が自動で暗くなるまで、私はその文字を見つめ続けた。

 鏡に映る私の顔は、紙のように蒼白だった。

 結婚式の時、エドワードがくれた言葉を思い出す。

「世界をすべて失っても、君だけは手放せない」

 私はふと、興味を覚えた。

 忠誠を信仰のように重んじていたこの男を、ここまで変えてしまったのは――いったいどんな女なのだろうか。

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