ラベンダーの嘘

ラベンダーの嘘

大宮西幸 · 完結 · 23.6k 文字

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紹介

私は人々が心理操作から逃れるのを助ける専門のセラピストです。
実は、救いを必要としていたのは私自身でした。
ラベンダー畑での完璧な婚約は正確に4時間続きました——婚約者の元妻が7,500万円を要求して現れ、そして母の「自殺未遂」が緊急治療のためにさらに750万円を必要とするまでは。
私は28年間、自分が強い方だと信じてきました。家族の支柱、頼りになる娘だと。愛とは犠牲を意味すると思っていました。助けるとは全てを与えることだと思っていました。
私は間違っていました。
時に、あなたの人生で最も有毒な人々は、あなたを育てた人たちです。時に、最大の心理操作は罪悪感、義務、そして「家族」という言葉に包まれています。
あなた自身の家族があなたの最大の敵になったとき、愛と心理操作の違いをどうやって見分けますか?そして、自分自身を救うことが他の全ての人を破壊することを意味するとき、あなたは何をしますか?

チャプター 1

 黄金色の夕暮れの光の中、ラベンダーが揺れている。まるでおとぎ話の中にいるみたいだった。

 これだ。六ヶ月前に翔太が初めて私の手を取ってくれた時から、ずっと夢見ていた瞬間。

 彼は片膝をつき、小さなベルベットの箱が夕日の輝きを捉えた。中に収められた手作りのシルバーリングには、繊細なラベンダーの花の彫刻が施されている。その曲線一つ一つが、彼の献身的な愛を物語っていた。

「瑞希、君は私の根っこだ。君と一緒なら、どこでだって私は成長できる」

 彼の声は低く、その奥深くから響いてくるようだった。胸がいっぱいになり、涙で視界が滲んだ。

「翔太、あなたは私に教えてくれた。癒やしは、一番思いがけない土壌で育つものだって」

 指輪は寸分の狂いもなく私の指に滑り込んだ。暖かくて、確かで、本物だと感じた。

 優しい交響曲のように、周りから拍手が沸き起こった。ラベンダーの花々の中でキスを交わしながら、これが私たちの『癒やしの庭』という夢の始まりに過ぎないのだとわかった。

 私はセラピスト。彼は園芸家。二人で、傷ついた魂のための聖域を創り出すのだ。

「うそ、まるで映画のワンシーンみたい!」友人の紗代が、他の人たちと一緒に駆け寄りながら声を弾ませた。

「瑞希、結婚式はいつ?」

「翔太、その指輪、自分で作ったの? すっごく素敵!」

 笑い声と祝福の言葉が黄昏の空気に満ちた。クリスタルのグラスの中ではシャンパンの泡が踊り、最後の日差しを反射していた。

 すべてが完璧だった。

 ――そうではなくなる、その瞬間までは。

 庭の門が、私たちの祝宴をナイフのように切り裂くほどの激しさで、乱暴に開け放たれた。

 シャープな黒いビジネススーツに身を包んだ女性が、砂利の小道を大股で歩いてくる。その視線はレーザーのように翔太に突き刺さり、驚く招待客たちの群れを貫いていた。

 翔太の顔から、さっと血の気が引いていくのが見えた。

 彼の手の中のシャンパングラスが震えていた。

「涼子……?」その名前は、祈りのようにも、あるいは呪いのように、彼の唇から漏れた。

 すべての会話が止まった。聞こえるのは、彼女の近づいてくる足音と、私の雷鳴のように鳴り響く心臓の音だけだった。

 彼女は翔太の真正面で立ち止まり、自分に向けられる五十対もの驚愕の視線を完全に無視した。

「冬木翔太、あなたはまだ私に7,500万円を支払う義務がある。新しい女を見つけたからといって、離婚の慰謝料が消えてなくなるわけじゃないのよ」

 離婚? 7,500万円?

 足の力が抜けていく。「離婚って……? 翔太、彼女、何の話をしてるの?」

 翔太は額に汗を浮かべ、言葉に詰まった。「涼子、これは……後で話そう……」

「話し合うことなんてないわ」涼子はブリーフケースから分厚い法的な書類の束を取り出した。「裁判所の命令は明確よ。三十日以内に支払うか、さもなければ法廷で会いましょう」

 彼女は、まるでゴミでも捨てるかのように、その書類を彼の足元に落とした。

 それから彼女は私の方を向いた。その冷たい瞳の中に、一瞬だけ、哀れみのようなものがよぎったのを私は見た。

「気をつけることね、お嬢さん。この男は真実を隠すのがとても上手だから」

 彼女のヒールがカツカツと遠ざかり、後には墓場のような沈黙が残された。

 招待客たちの間に、さざ波のように囁き声が広がり始めた。

「翔太、結婚してたの?」

「7,500万円? マジかよ……」

「瑞希ちゃんは知ってたのかな?」

 私は自分の婚約指輪を見下ろした。ほんの数分前まであんなに暖かく感じられたシルバーが、今は肌の上で冷たく重く感じられた。

 私のおとぎ話は、粉々に砕け散った。

 深夜。北海にある、私たちのアパート。

 床から天井まである窓から街の灯りが流れ込み、私が一人で座っているベッドに影を落としていた。翔太はリビングで、ひそひそ声で電話をしている。

 私のスマートフォンが、通知で爆発しそうだった。

 画面にお母さんの顔が現れ、それに続いてテキストメッセージと写真が洪水のように押し寄せてきた。

 最初の画像を開いて、息を呑んだ。

『診断書

  患者氏名 星野玲奈

  診断名 重度うつ病、自殺念慮あり 治

 療方針 入院加療が必要と判断します

 備考 早急な対応が望ましいと考えます

 川崎総合病院 精神科』

 ボイスメッセージが再生されると、私の手は震えた。

「瑞希、あなたの大切な日に負担をかけたくはないんだけど……もう、この暗闇と戦えないの。お医者様が、すぐに治療が必要だって」

 スピーカーから、お母さんのすすり泣きが聞こえてくる。「もう睡眠薬も買ってあるの。もし750万円の治療費が用意できなかったら、私……いつまで持ちこたえられるか……」

 銀行のアプリを開くと、心臓が肋骨を激しく打ちつけた。

 750万円。翔太と私が、『癒やしの庭』のために貯めてきた、まさにその金額だった。

 二年間の慎重な計画。二年間の夢。

 でも、お母さんの命は、夢よりも大切だ。

「どうして気づかなかったんだろう。婚約披露宴では元気そうだったのに……」

 ほんの数時間前、彼女が招待客と笑い合っていたのを思い出す。この衝撃的な診断書に書かれているような、うつ病の兆候は微塵もなかった。

 でも、医療書類は嘘をつかない、でしょう?

 送金を確定しようとした、その時だった。翔太が電話を終えて寝室に入ってきた。

 彼は私のスマートフォンの画面を見て、優しく私の手からそれを取り上げた。

 診断書に目を通すうちに、彼の眉間の皺が深くなった。

「瑞希、怖いのはわかる。でも、この日付を見て。昨日診断された人が、どうして今日の婚約披露宴で平気でいられるんだ?」

 彼は診断書の日付を指さした。その声は優しかったが、断固としていた。

 怒りが胸の内で燃え上がった。私はスマートフォンをひったくるように取り返した。「本気で言ってるの? 私の母が自殺の診断を偽造するって? あなたの謎の元妻が現れて7,500万円を要求した、まさにこの直後に?」

「母は命がけで戦ってるのよ。それをあなたは、ここに立って病気を疑うわけ?」

 翔太が私を慰めようと手を伸ばしてきたが、私は身を引いた。彼は続けた。「これがどう見えるかはわかってる。でも、何かがおかしいんだ……」

「触らないで!」私は鋭く言った。「あなたに『おかしい』なんて言う資格はないわ。結婚してたことさえ、私に話してくれなかったくせに!」

「涼子のことは説明できる……」

「説明?」私は苦々しく笑った。「7,500万円の借金を、一体どう説明するつもり? それとも、あの深夜の弁護士からの電話は?」

 翔太が凍りついた。「私の通話履歴を見たのか?」

「他にどうやって、私の婚約者が完全な詐欺師だってわかるっていうの?」

 私たちは、壊れた信頼という海の向こう側で、互いを見つめ合った。

 あのラベンダー畑での魔法のような夜が、まるで遠い昔のことのように感じられた。

 翔太は重いため息をついた。「……ソファで寝るよ」

 寝室に一人きりになり、銀行のアプリを見つめながら、涙が頬を伝った。

 私はお母さんにテキストを送った。「お金、送ったわ。病院に行って」

 婚約指輪を指で回す。その重さが、突然耐え難いものに感じられた。

 突然、スマートフォンが震えた。

 発信者表示は、川崎総合病院 救急外来。

 わずか十二時間のうちに、私の完璧な人生は、音を立てて崩れ落ちる砂上の楼閣と化していた。

 この電話は、どんな知らせを運んでくるのだろう?

 私は画面を見つめ、指を通話ボタンの上でさまよわせた。

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だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。

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次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。

兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」

彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
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