彼が売り渡した妻

彼が売り渡した妻

大宮西幸 · 完結 · 28.4k 文字

653
トレンド
653
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

かつて三井優子の人生は完璧だった――優しく思いやりのある夫三井純一、愛らしい娘絵麻、そして誰もが羨む中流家庭の暮らし。

あの真夜中までは。
薬で意識を朦朧とさせられた中、見知らぬ男の残酷な暴力を感じたのだ。そして目を覚ますと、夫はソファで安らかに眠っていた。

最初は悪夢だと思った。だが、裂けるような痛みと、下着に残った体液が、すべてが現実であることを突きつけた――自分は完全に無防備な状態で、誰かに犯されたのだ。

真相を探り始めた優子は、想像を絶する事実に辿り着く。夫は彼女の牛乳に睡眠薬を混ぜ、意識を失った彼女の身体を、仮面をつけた変態に「貸し出して」いた。そしてその凌辱は、世界中の変態たちが観るためにライブ配信されていた。

二年間、彼女は妻ではなかった――夫に売られた性奴隷だった。

チャプター 1

優子視点

午前2時、微睡みの中で馴染みのある温もりが近づいてくるのを感じた。

「純一?」

瞼が重くて開けられないまま、私はそっと囁いた。

闇の中で誰かが優しく私の頬を撫でる。その感触は慈愛に満ちていながら、どこか焼けるように熱い。心臓が早鐘を打ち始め、久しく忘れていたときめきが血管を駆け巡った。

やっと……私は心の中で呟いた。やっと、私に触れてくれる気になったの?

結婚して二年。絵麻を授かったあの一度きりを除けば、純一は常に私と礼儀正しい距離を保ち続けてきた。私が歩み寄ろうとするたび、彼はいつも何かしらの理由をつけて私を遠ざけたのだ。

だが、今夜は違う。今夜の彼は、まるで別人のようだった。

予告もなく唇が塞がれる。そこには馴染みのない野性と欲望が宿っていた。いつものような淡白で形式的なものではなく、深く、支配的で、独占欲に満ちた口づけ。

「待って……」

私は目を開けようとした。彼の顔をはっきりと見たくて。

「シッ……喋らないで」

低い声が耳元で囁く。

この感覚……まただ。以前にもあった曖昧な記憶のように、懐かしいけれど、どこか決定的に何かが違う。

部屋を照らすのは頼りない月明かりだけで、ぼんやりとした輪郭しか見て取れない。純一なの? そうに決まってる――他に誰がいるっていうの?

しかし、その動きはいつもの優しく礼儀正しい夫とは似ても似つかなかった。その手は荒々しく力強い。触れられるたびに強烈な侵略性を帯びていて、まるで私を骨の髄まで所有しようとしているかのようだった。

「今夜は……すごく、違うのね……」

私は息を切らした。

彼は答えず、ただ激しく唇を重ねてくるだけだった。指が私の髪に強く絡まり、その強引さに私は小さく悲鳴を漏らした。

粗暴さと優しさが入り混じったその扱いに、私は恐怖と興奮が入り混じるのを感じた。純一はいつから……こんなにも私の求めているものを理解するようになったの?

拒もうとも、問い質そうとも思った。けれど、身体の本能が理性を裏切っていく。全細胞がこの久しく絶えていた親密さを渇望し、心から求められるという感覚に飢えていたのだ。

「君が恋しくてたまらなかったからかもしれない」

彼は耳元で吐息を漏らした。

この声……純一のようで、何かが違う。もっと低く、官能的で、まるで全くの別人のよう。

だが、もう思考は追いつかなかった。彼のすべての仕草が、私の心の隙を正確に突いてくる。まるで私の身体を知り尽くしているかのように。私は次第にその愛撫に溺れ、理性は快楽に飲み込まれていった。

時間の感覚が曖昧になる。覚えているのは、彼の腕の中で震え続け、自分でも聞いたことのないような声を上げていたことだけ。刺激があまりに強すぎて――この極上の快楽で死んでしまうのではないかと思ったほどだった。

やがて、かつてない絶頂を迎えた私は、そのまま深い闇へと堕ちていった。

再び目を覚ました時、時刻は午前4時を回っていた。

隣のベッドは空で、枕だけが微かな温もりを残している。

全身が気だるく、身体の奥が鈍く疼いている。夢ではなかった証拠だ。けれど……。

「純一?」

そっと呼びかける。返事はない。

言い知れぬ不安に駆られ、じっとしていられなくなった。私はガウンを羽織ると、忍び足で寝室を出た。

廊下は静まり返り、浴室にも明かりはない。私はそのまま居間へと向かった。

居間から、微かな寝息が聞こえてくる。

近づいた瞬間、私の世界は音を立てて崩れ落ちた。

純一がソファで毛布にくるまり、熟睡していたのだ。目の前のローテーブルにはノートパソコンが開かれたまま。その深い眠りようは、そこで何時間も過ごしていたことを物語っていた。

全身の血が凍りついた。

純一がここで寝ていたのなら、さっきまで私と一緒にいたのは誰……?

私は寝室へ駆け戻り、震える手で明かりをつけた。シーツは乱れ、枕にはくっきりとした窪みが残っている。床には私のパジャマが散乱し、下着は履き替えさせられていた。

誰かが……私が全く気づかないうちに……。

その事実に、胃が裏返りそうなほどの吐き気を催した。

だが、何よりも恐ろしかったのは、なぜこの状況に覚えがあるのかということだ。以前にも、こんなことがあった?

曖昧だった記憶の断片が繋がり始める。朝起きると身体に違和感があること、いつの間にか変わっている下着、純一がいつも「君の勘違いだ」と言っていたこと……。

津波のように押し寄せる恐怖に耐えきれず、私はベッドの端に崩れ落ちた。

最新チャプター

おすすめ 😍

捨てられた妻

捨てられた妻

149.6k 閲覧数 · 完結 · titi.love.writes
ロクサーヌは献身的な妻になろうと努めていたものの、彼女の結婚生活は日に日に耐え難いものとなっていった。夫が策略家の社交界の女性と不倫をしていることを知り、心が砕け散る。屈辱と心の痛みに耐えかねた彼女は、大胆な決断を下す―贅沢な生活を捨て、新たな自分を見つけるための旅に出ることを決意したのだ。

自己発見の旅は、彼女をパリという活気溢れる街へと導いた。偶然の出会いを重ねるうちに、カリスマ的で自由奔放なアーティストと親しくなり、その人物は彼女が今まで知らなかった情熱と芸術と解放の世界へと導いてくれる存在となった。

物語は、臆病で見捨てられた妻から、自信に満ちた独立した女性への彼女の変貌を美しく描き出す。指導を受けながら、ロクサーヌは自身の芸術的才能を発見し、キャンバスを通じて感情や願望を表現することに心の安らぎを見出していく。

しかし、彼女の変貌の噂がロンドン社交界に届き、過去が彼女を追いかけてくる。ルシアンは自分の過ちの重大さに気付き、離れていった妻を取り戻すための旅に出る。物語は、捨て去った過去の生活と、今や大切なものとなった新しい自由の間で揺れ動く彼女の姿を予想外の展開で描いていく。

三年続いた結婚生活は離婚で幕を閉じる。街中の人々は、裕福な家の捨てられた妻と彼女を嘲笑った。六年後、彼女は双子を連れて帰国する。今度は人生を新たにし、世界的に有名な天才医師となっていた。数え切れないほどの男性たちが彼女に求婚するようになるが、ある日、娘が「パパが三日間ずっと膝をついて、ママと復縁したいってお願いしているの」と告げる。
命日なのに高嶺の花とお祝いする元社長 ~亡き妻子よりも愛人を選んだ男の末路~

命日なのに高嶺の花とお祝いする元社長 ~亡き妻子よりも愛人を選んだ男の末路~

19k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
愛する娘は、夫と愛人の手によって臓器を奪われ、無残な最期を遂げた。

激痛の心を抱えた私は、その悲しみと怒りを力に変え、殺人者たちと運命を共にすることを決意する。

だが、死の瞬間、思いもよらぬ展開が待っていた――。

目覚めた私は、愛する娘がまだ生きていた過去の世界にいた。

今度こそ、この手で娘と私自身の運命を変えてみせる!
壊れた愛

壊れた愛

38.5k 閲覧数 · 連載中 · yoake
片思いの相手と結婚して、世界一幸せな女性になれると思っていましたが、それが私の不幸の始まりだったとは思いもよりませんでした。妊娠が分かった時、夫は私との離婚を望んでいました。なんと、夫は他の女性と恋に落ちていたのです。心が砕けそうでしたが、子供を連れて別の男性と結婚することを決意しました。

しかし、私の結婚式の日、元夫が現れました。彼は私の前にひざまずいて...
社長、奥様が亡くなりました。ご愁傷様です

社長、奥様が亡くなりました。ご愁傷様です

14.9k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
お金と特権に囲まれて育った私。完璧な人生に疑問を持つことすらなかった。

そんな私の前に彼が現れた―
聡明で、私を守ってくれる、献身的な男性として。

しかし、私は知らなかった。
私たちの出会いは決して偶然ではなかったことを。
彼の笑顔も、仕草も、共に過ごした一瞬一瞬が、
全て父への復讐のために緻密に計画されていたことを。

「こんな結末になるはずじゃなかった。お前が諦めたんだ。
離婚は法的な別れに過ぎない。この先、他の男と生きることは許さない」

あの夜のことを思い出す。
冷水を浴びせられた後、彼は私に去りたいかと尋ねた。
「覚えているか?お前は言ったんだ―『死以外に、私たちを引き離せるものはない』とね」

薄暗い光の中、影を落とした彼の顔を見つめながら、
私は現実感を失いかけていた。
「もし...私が本当に死んでしまったら?」
真実の愛 ~すれ違う心と運命の糸~

真実の愛 ~すれ違う心と運命の糸~

38.4k 閲覧数 · 連載中 · yoake
彼女は6年間、彼を一途に愛し続けてきた。
億万長者の夫の心を、深い愛情で掴めると信じていた。

しかし衝撃的な事実が発覚する。
彼には愛人がいた―障害を持つもう一人の女性。

彼はその女性に最高の幸せと優しさを与え、
一方で彼女には冷酷な態度を取り続けた。

その理由は、かつて自分を救ってくれた恩人を
その女性だと思い込んでいたから。
実際には、彼女こそが真の恩人だったのに―。
妊娠を隠して退職…社長は後悔の涙を零す

妊娠を隠して退職…社長は後悔の涙を零す

13.9k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
予期せぬ妊娠が、報われない愛の現実と向き合わせた時、彼女は気づいた。もう、痛みしかもたらさない愛のために、自分を犠牲にはできないと。かつては希望に満ちていた心は、今は疲れ果て、前に進めなくなっていた。彼女は決意した。この傷つきと願いの循環から抜け出すことを。

しかし、彼女の沈黙と忍耐に慣れていた彼は、彼女を手放すことを拒んだ。彼女の心を取り戻そうと必死になる中で、彼は気づき始めた。本当の幸せは、ずっと彼女の手の中にあったことを...
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

13.2k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
愛人のために離婚届にサインしたら、元夫が泣いて復縁を求めてきた

愛人のために離婚届にサインしたら、元夫が泣いて復縁を求めてきた

9.1k 閲覧数 · 完結 · 渡り雨
「サインしろ。それを書けば、俺たちは離婚だ」
夫である佐藤隆一は無情にそう言い放った。
緘黙症を患う私は、何も言わずに離婚届にサインをした。

「おい、本当に離婚するのか?」と、隆一の友人が尋ねる。
「大丈夫だ。一ヶ月もしないうちに、あいつは俺の元に戻ってくるさ。俺から離れられるわけがない。だって、あいつは声も出せないんだからな」

彼らの会話を、私は黙って聞いていた。
その時、スマートフォンに一通のメッセージが届く。
『京都に旅行でもどう? 気分転換しに』

この瞬間から、私の人生は違う軌道を描き始めた。
出所したら、植物状態の大富豪と電撃結婚しました。

出所したら、植物状態の大富豪と電撃結婚しました。

11.8k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
5年前、私は誰かの身代わりとなり、無実の罪で投獄された。
出所すると、母親は彼女が獄中で産んだ二人の子供を盾に、植物状態にある億万長者との結婚を強いる。
時を同じくして、その悲劇の大富豪もまた、家族内での権力闘争の渦中にいた。

街では植物状態の男が若い花嫁とどう初夜を過ごすのかと噂される中、この元囚人が並外れた医療技術を秘めていることなど、誰も予想だにしなかった。
夜が更け、無数の銀鍼(ぎんしん)が打たれた男の腕が、静かに震え始める…

こうして、元囚人の彼女と植物状態の夫との、予期せぬ愛の物語が幕を開ける。
突然の結婚で、大物に溺愛されました

突然の結婚で、大物に溺愛されました

12.1k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
婚約式の三日前、婚約者が義理の妹と不倫している現場を目撃してしまった彼女。深く傷つき、絶望の中、激しい雨の中をさまよっていた時、一人の男性に助けられる。

「やっと、見つけた」

男性は彼女を大切そうに抱きしめながら、そうつぶやいた。

一夜の過ちから始まった突然の結婚。しかし後になって、その男性が財務部の大臣であり、大手企業グループのCEOだということを知る。そして更に、失われていた8年間の記憶の中に、自分が並々ならぬ身分の持ち主だったという事実が徐々に明らかになっていく……
ブサイクな男と結婚?ありえない

ブサイクな男と結婚?ありえない

47.8k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
意地悪な義理の姉が、私の兄の命を人質に取り、噂では言い表せないほど醜い男との結婚を強要してきました。私には選択の余地がありませんでした。

しかし、結婚後、その男は決して醜くなどなく、それどころか、ハンサムで魅力的で、しかも億万長者だったことが分かったのです!
冷酷社長の愛の追跡、元妻の君は高嶺の花

冷酷社長の愛の追跡、元妻の君は高嶺の花

3.3k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
「離婚しましょう」——夫が他の女性と恋に落ち、私にそう告げた日。
私は静かに頷いた。

離婚は簡単だった。でも、やり直すことはそう簡単にはいかない。

離婚後、元夫は衝撃の事実を知る。私が実は大富豪の令嬢だったという真実を。
途端に態度を豹変させ、再婚を懇願して土下座までする元夫。

私の返事はたった一言。
「消えろ」