結婚式から逃げた彼のあとで、私は億万長者と結婚した

結婚式から逃げた彼のあとで、私は億万長者と結婚した

渡り雨 · 完結 · 20.8k 文字

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紹介

私と幼馴染の聡介は共に育ち、教会で指輪を交換し、永遠の愛を誓うはずだった。しかし、彼は結婚式の当日に私を捨て、自殺すると騒いだ高嶺の花を助けに駆けつけ、私の両親を半殺しの目に遭わせた。

四年後、私は夫と共に故郷のA市に戻ってきた。さほど大きくないこの街で、運命は皮肉にも、私を彼と再会させた。

あろうことか、彼は私に愛人になれと言い放ったのだ。

私は左手を掲げ、指輪が照明の下で冷たい光を放つ。
「あなた、目は見えないの?」

チャプター 1

 故郷に戻ってから、もう三ヶ月余りが過ぎた。

 時の流れは緩やかで、日課といえば両親との散歩や談笑、あとはスマホ越しに夫や娘とテレビ電話をするくらいだ。

 今日は親友に誘われて街へ出た。数日後には夫と娘もこちらへ来る予定なので、ちょうどいい気晴らしになると思って了承したのだ。数年ぶりに会った彼女は相変わらずで、私を試着室に押し込んでは「また太っちゃった」と愚痴をこぼしている。

 買い物を終え、市中心部の高級レストランに腰を落ち着ける。

 酒が入った親友は、堰を切ったように話し始めた。「ねえ知ってる? あの時、あんたたちが式場を出ていった直後に、聡介が戻ってきたのよ」

 彼女は声を潜め、ゴシップ特有の興奮を目に宿して続けた。「ほとんど入れ違いみたいなもんよ。その日のうちに、あの女と結婚式を挙げたんだから」

「世間じゃ大炎上だったけど、本人は痛くも痒くもないって顔してたわ」

 私は淡々とグラスを傾け、口を湿らせた。

「過去のことよ。もう終わった話だわ」

 親友は溜息をつき、話題を変えた。

「正直なところ、当時あんたが思い詰めてるんじゃないかって心配してたのよ。まさか結婚して、娘まで生まれてるなんてね」

「今の旦那さん、良くしてくれる?」

 私は頷き、自然と口元を綻ばせた。

 夫と娘のことを思うだけで、胸の奥から温かいものが込み上げてくる。それは真の安らぎであり、かつてあの男の後ろを愚かにも追いかけ回していた頃の自分とは、何から何まで違っていた。

 食事と会話が進む中、親友が突然顔色を悪くした。

「お腹壊したかも」と言い残し、彼女は慌ててトイレへと駆け込んでいく。

 取り残された私は、手持ち無沙汰にスマホを弄っていた。

「由美奈か?」

 背後から声がした。

 あまりに聞き覚えのあるその声に、全身が凍りつく。

 振り返る。

 そこに聡介が立っていた。後ろにはスーツ姿の男たちを数名従えている。濃色のコートを羽織り、髪を隙なく撫で付け、顔には見飽きたあの笑みを張り付けていた。

 虚飾と、独善に満ちた笑みだ。

「やっぱりそうだ」彼は数歩近づき、私を値踏みするように上から下まで眺めた。

「いつ戻ってきた?」

 取り巻きの男たちも寄ってきて、探るような、嘲るような視線を投げてくる。

 その一人が舌打ち交じりに言った。

「なんだその格好、相変わらず地味すぎて涙が出るねえ。聡介がいなくなってから、相当落ちぶれたんじゃないか?」

「全くだ」別の男が鼻で笑う。

「どうりでこんな場所にいるわけだ。由美奈、お前まだ聡介が忘れられなくて、待ち伏せしてたんだろ?」

「つーか、よく入れたな。ここ安くないぜ」

 彼らの言葉が、蝿のように耳元でブンブンと喚き立てる。

 私はグラスを持つ手に力を込めた。

 いつだったか、私も彼らの前で顔色を窺い、機嫌を損ねないよう愛想笑いを浮かべていた。

 今にして思えば、なんと滑稽なことだろう。

 聡介は手を振って取り巻きを制すると、ねっとりとした甘い視線を私に向けた。

「数年見ないうちに、綺麗になったな。分かってるよ、俺のことが忘れられないんだろ。じゃなきゃ、わざわざこんな所に来るはずがない」

 彼は勿体ぶって一呼吸置き、さも慈悲深い提案でもするかのように声を潜めた。

「そこまで俺を愛しているなら、受け入れてやってもいい。俺の愛人になれよ」

 男たちが即座にはやし立てる。

「さっすが大将、情が深いねえ!」

「おい、早く感謝したらどうだ? 今の大将はすげえんだぞ。なんたって、今をときめく巨大企業のトップ、林田様と提携するんだからな。本物の大物だぞ!」

「千載一遇のチャンスだぜ、その恰好じゃあな!」

 彼らの声はますます耳障りになっていく。 周囲の客が眉を顰め、ヒソヒソとこちらを見ているのが分かった。

 吐き気がした。

 彼らの言葉にではない、目の前の男に対してだ。

 これほど図々しく、恩着せがましく振る舞える神経が信じられない。晴子だけでは飽き足らず、夫の愛を受けて輝く私を見て、薄汚い欲望を抱いたのだろう。

 その視線は蛇のように絡みつき、粘着質で、不快極まりない。

 嵐の中で「ずっと一緒だ」と誓ったあの少年は、とうの昔に死んだのだ。

 私はグラスを置き、バッグを掴んで立ち上がった。

 一秒たりともここにいたくない。

 だが数歩も進まないうちに、手首を掴まれた。

 聡介が追いかけてきており、その後ろには金魚のフンたちも続いている。

「何するつもりだ?」彼は不満げに眉を寄せた。

「俺が話してるんだぞ」

「晴子と結婚したのは仕方なかったんだ」声のトーンを落とし、自分に酔ったような表情で彼は続けた。

「一つの命がかかってたんだ。お前なら理解できるだろ?」

「それに、俺の心はまだお前を愛してる」

「俺に振り向いてほしいんだろ? 拒絶するような真似はやめろよ」

 私は彼の手を力任せに振りほどき、左手を突き出した。薬指のリングが、陽光を弾いてきらりと輝く。

「目は節穴なの?」

「私が結婚してることすら、見えないわけ?」

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