絶望エッジから復讐ウィンへ

絶望エッジから復讐ウィンへ

拓海86 · 完結 · 25.6k 文字

913
トレンド
1.3k
閲覧数
288
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

腐ったサンドイッチをロッカーに仕込まれた日、俺は悟った。もう誰も俺を人として扱ってくれないのだと。

義妹に弁当を踏み潰され、クラスメイトには笑い者にされ、親友にまで裏切られた。屋上で死を選ぼうとした瞬間、謎の電話が「復讐してやろうか?」

チャプター 1

絵里

 朝霧がまだ窓に張り付いている学園で、私は自分のロッカーの前に立っていた。

 金属製の扉には『黒井絵里』というネームプレートが貼られている。このエリート進学校において、その苗字は重みを持つ。けれど、私にとっては重荷でしかなかった。

 ダイヤル式の鍵を回す。カチリ。扉が開いた。

 瞬間、腐ったような悪臭が鼻を突いた。

 腐りかけのサンドイッチ、カビの生えた牛乳パック、油染みのついたナプキンがどっと雪崩れ出てきて、制服を汚し、床に散らばった。吐き気を催す腐敗臭が、一瞬にして廊下全体に充満した。

「うわっ! 見てよ、あの奨学生のロッカー!」

「マジで臭っ~あいつにぴったりじゃん!」

「誰かスマホ! これ撮らなきゃ!」

 生徒たちがハイエナのように群がり、スマホを掲げ、あちこちでフラッシュが焚かれる。

 私はロボットのように膝をつき、散らかったゴミを拾い始めた。制服のスカートが汚物を吸い込んでいく。

「あらあら、姉さんじゃない」

 聞き慣れた声が背後からした。振り返ると、真新しい制服に身を包んだ沙耶香が、完璧に作り上げられた心配そうな表情を浮かべてこちらへ歩いてくるところだった。

 彼女はブランド物の靴で、ぐちゃぐちゃのサンドイッチを真上から踏みつけた。ぐしゃり、と嫌な音がする。

「姉さん、学校のイメージが悪くなるわ。みんながどう思うかしら?」

 私は拳を固く握りしめた。爪が手のひらに食い込む。

「あなたがやったの?」

「私? 何のことかしら?」沙耶香は子鹿のように無垢な瞳を瞬かせた。「私がこんなことするわけないじゃない。もしかして……もう少し衛生観念を身につけた方がいいんじゃない?」

 野次馬たちの笑い声が、さらに大きくなった。私はうつむいたまま片付けを続けた。涙がゴミと混じり合う。


 化学の応用授業で、渡辺先生がグループでの実験作業を発表した。

「四人一組でチームを作ってください。パートナーは自由に選んで構いません」

 周りを見渡すと、生徒たちは皆、意気揚々とチームメイトを探している。私は立ち上がり、一番近くのグループに歩み寄った。

「ごめん、もういっぱい」金髪の女が、顔も上げずに言った。

 別のグループにも声をかけてみる。

「入れてもらえないかな?」

「悪い、もう決まってるんだ」と、ある男がわざとらしく椅子を内側に引いて言った。

 次から次へとグループに断られ、その拒絶は一度ごとに冷たさを増していった。とうとう、私だけが教室の真ん中に取り残された。まるで、いらない残り物みたいに。

 渡辺先生は気まずそうに咳払いをした。

「黒井、君は……一人でやってくれ」

 教室全体が、不気味な静寂に包まれた。私は静かに隅の実験台へ向かい、一人で溶液の準備を始めた。孤立した一角で、ビーカーや試験管がカチャンカチャンとやけに大きく鳴り響き、その一つ一つの音が私の孤独を際立たせた。


 カフェテリアでの昼食は、さらに悪夢だった。

 トレーを手に、満員のカフェテリアをさまよう。プラスチックの上を、みじめな冷たいサンドイッチが滑る。座る場所を探して。テーブルに近づくたび、そこに座っている生徒たちは示し合わせたようにそっぽを向き、私に背を向けた。

「ごめん、ここ、空いてないから」

「あっちも無理」

「他、当たれば?」

 カフェテリアの隅に追いやられ、壁に背を押し付けながら、味のしないサンドイッチを無理やり喉に押し込んだ。

「見て、孤児の絵里がまた席を乞食してる」

「いつも一人で食べてるよね。マジうける」

「うけるってか、あいつん家、金持ちじゃなかった? なんで被害者ぶってんの?」

 彼らの囁き声は、カフェテリアの喧騒を切り裂いて、ナイフのように正確に私の耳に届いた。ロボットのように咀嚼を続ける。サンドイッチは、まるで紙でも食べているかのようだった。


 昼休み、校庭にて。

 静かに本を読める隅っこを探していただけなのに、気づけば囲まれていた。その中心にいるのは五条和也、生徒会長で、バスケ部のキャプテンで、女子生徒全員の憧れの的。

「絵里、調子はどうだ?」彼の笑みは完璧で、計算されていて、そして捕食者のそれだった。「慈善基金は、ちゃんと機能してるか?」

 彼の友人たちも嘲笑に加わる。

「ああ、俺たち貧乏人がどうやって生きてるのか、すっごく興味あるんだ」

「なんか援助してやろうか?」

 私は胸にバックパックを抱きしめ、彼らの間をすり抜けようとした。しかし、和也が私のバッグをひったくり、頭上高くに掲げた。

「こんなボロいバックパックは、うちの学園にふさわしくない」

「返して!」涙が溢れそうになる。

「欲しいか? だったらゴミ箱から拾ってこいよ!」

 私のバックパックはゴミ箱めがけて放り投げられ、本や文房具がそこら中に散らばった。私はゴミ箱に駆け寄り、膝をついて、ゴミの中に両手を突っ込んだ。

「写真撮れよ! このアングル最高だ!」

「奨学生の毎日のゴミ漁り!」

 スマホが、屈辱的な瞬間の一秒一秒を記録していく。和也を見上げると、彼の瞳の奥で何かが.......罪悪感?一瞬きらめき、そして消えた。

「自分の立場をわきまえろ、絵里」彼は私を汚物でも見るかのように見下した。「ただの慈善事業の対象なんだよ」


 午後七時、黒井邸のダイニングルーム。

 長いテーブルの末席に座りながら、継母の奈央が優雅にステーキを切り分けるのを眺めていた。暖炉の火が、彼女の大理石のような顔立ちに揺らめく影を落とす。

「お母さん……」勇気を振り絞って口を開いた。「学校の子たちが、ずっと……」

「ずっと何?」彼女は顔も上げない。

「私をいじめるんです。ロッカーにゴミを投げ入れたり、私の写真を撮ってネットに上げたり……」涙がこぼれ始めた。「もう、本当に耐えられません」

 奈央はようやく目を上げ、まるで高級絨毯についた染みでも見るかのように私を見た。

「問題はあなたにあるんじゃないかしら。他人の文句を言う前に、自分の行動を反省すべきよ」

「でも、私は何もしていません!」

「何も?」沙耶香がフォークを置き、心配そうに私を見た。「絵里、クラスメイトから聞いたわ。最近、すごく情緒不安定なんですって。本当にセラピーが必要なのかも――みんな、あなたが何か危ないことをするんじゃないかって心配してる」

 私は凍りついた。彼女の裏切りに愕然とする。

「あなた……何を言ってるの?」

「心配してるだけよ」彼女は無邪気に瞬きをした。「だって、家族だもの」

 奈央は頷いた。

「沙耶香の言う通りね。セラピストに連絡しておくわ」

 もう耐えられなかった。椅子が床をけたたましく擦る音を立て、私はテーブルから飛び出し、自分の部屋へ逃げ込んだ。

 寝室で私に寄り添ってくれるのは、母の写真だけだった。写真立てを胸に抱きしめると、涙がとめどなく頬を伝った。

「母親、強く生きてって言ったよね……でも、私、もう無理だよ」

 スマホが、学校のグループチャットからの通知で執拗に震え続けていた。震える指でチャットを開くと、そこには今日の屈辱がハイライト映像のようにまとめられていた――ゴミの中に跪く私、バックパックを探してゴミを漁る私、泣いている私。

 コメントはさらに残酷だった。

【クソワロタwww 😂】

【なんでこんな奴がうちの学校いんの?】

【恥かく前に退学すりゃいいのに】

 母の最期の言葉が、亡霊のように私を苛む。「強く生きて」

 でも今夜、私にその力が残っている自信はなかった。

 明日は、一体何が待っているのだろう?

最新チャプター

おすすめ 😍

社長の奥様は、世界を震撼させる

社長の奥様は、世界を震撼させる

62.3k 閲覧数 · 連載中 ·
青山光は、最も信頼していた親友と男に共謀され、殺された。
亡くなる前に安田光は知っていた。自分を最も愛してくれていたのは青山雅紀だ。
彼は青山光名目上の夫である。彼は彼女の死を知ったとき、殉情した。
青山光はその時初めて、男が自分の手首を切り裂いていたことに気づいた。鮮血は瞬く間にシーツを赤く染めていく。
「やめて」青山光ははっと目を覚ました。
額には冷や汗が滲み、体は氷のように冷たい。目を開けると、そこは見覚えがあるようで、どこか見慣れない光景だった。
自分は死んだのではなかったか?
ここはどこ?
青山光はついに悟った。自分は生まれ変わったのだ。
生まれ変わったからには、青山光はあの二人に必ず代償を払わせると誓った。そして同時に、青山雅紀を守り抜くのだ。
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った

家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った

282.7k 閲覧数 · 連載中 · 風見リン
前の人生で両親が交通事故で亡くなった後、長兄は世間体を気にして、事故を起こした運転手の娘を家に引き取った。
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。

生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。

兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。

長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。

兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」

彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
初恋よ、引き下がれ!

初恋よ、引き下がれ!

34k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
結婚してから、夫が私に触れたことは一度もなかった。
私は、彼を無性愛者なのだと思い込んでいた。……あの日、彼の裏切りを知るまでは。

夫の浮気が発覚したのは、相手の女が病院に運ばれたからだった。二人の行為があまりに激しかったせいだという。

そして、何よりも私を打ちのめしたのは、その相手が――私の実の妹だったという事実だ。

その瞬間、心臓を煮えたぎる油に放り込まれたような、耐え難い激痛が全身を貫いた。
私の障害のある夫は闇の帝王

私の障害のある夫は闇の帝王

38.3k 閲覧数 · 連載中 · 南ちゃん
「これは俺を誘惑する手段か?」蒼司は目の前の薄い寝間着を身に纏った女を見つめた。彼女の完璧な身体の曲線が目の前に晒されている。

「認めよう、俺はお前に惹かれている」

蒼司は勢いよく頭を下げ、薄い唇で私の鎖骨に噛みつき、指先は私の胸の豊かな膨らみから下へと辿り、両脚の間に押し入った。

私は彼にベッドに押し倒され、彼が私の身体にもたらす快感を感じていた。

「いい子にして、俺を受け入れろ」蒼司は勢いよく私を貫いた。


元夫と従妹の裏切りに遭った後、会社の損失を補うため、未来は身体障害で顔に傷を負った蒼司と契約結婚することになった。

しかしある事故で未来は発見する。蒼司は顔に傷もなく、身体障害でもなく、それどころかこの街全体を支配する闇の帝王だったのだ。

未来は恐れ、この恐ろしい男から逃げ出そうとするが、蒼司は何度も彼女を連れ戻す。「契約は無効だ。俺はお前の身体だけでなく、心も欲しい」

今度こそ、彼女は本当にこの危険な男を愛してしまうのだろうか?
名門貴族との甘い結婚

名門貴族との甘い結婚

3.8k 閲覧数 · 連載中 · 佐藤製作所
かつて勘当した娘がホワイトシティで名を馳せたことを知り、愕然とした。産業界の巨人、学術界の権威、そしてAリストの俳優たちが、彼女のおかげで成功を収めたと口を揃えて語った。彼女の元カレは、夢の女性を選んで彼女を捨てたものの、今や彼女を取り戻そうと必死に懇願していた。しかし、彼女のそばには、背が高くハンサムな男性が立ち、「私の妻に何をしているつもりだ?」と宣言した。
その男性こそ、ホワイトシティ一の大富豪だったのだ。
婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

28.3k 閲覧数 · 連載中 · やもり
裏切りと陰謀が渦巻く世界で、妃那(えな)は突然の誘拐事件に巻き込まれる。
救いの手を差し伸べたのは謎めいた男・葉夜(かなや)だったが、彼の真意は読めない。
一方、妃那の宿敵であり自信家の祈葉(いのか)は、自らの美貌と魅力を武器に黒社会の頂点を目指すが、
思いもよらぬ残酷な試練に追い込まれていく。
誤解と嫉妬、愛と憎しみが絡み合い、
それぞれの思惑がやがて一つの危険な運命へと収束していく――。
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

272k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
氷の社長が溶かされていく。ストイックな彼の、灼熱の恋

氷の社長が溶かされていく。ストイックな彼の、灼熱の恋

33.6k 閲覧数 · 連載中 ·
彼女が中村良太郎の娘であるというのか。
人の行き交う喫茶店で、少女の白い顔に重い平手打ちが叩き込まれた。
真っ赤に腫れた右頬を押さえ、彼女の瞳は虚ろで、反撃する気など微塵も感じさせない。
周りの人々は、侮蔑と嘲笑の入り混じった視線を彼女に向け、嘲笑うばかりで、誰一人として彼女を庇う者はいなかった。
自業自得だからだ。
誰のせいで、彼女が中村良太郎の娘であるというのか
父、中村良太郎は建築家として、自身が設計した建物で事故が起きたため、有罪判決を受けて刑務所に入ることになった。
母も心労で入院している今となってはなおさらだ。
黒田謙志。中村奈々の現在のスポンサーであり、今朝、会社で彼女と肌を重ねたばかりの黒田家の長男。
今、彼は、自分の婚約者に跪いて謝罪しろと彼女に命じている。
本物令嬢の正体がばれました

本物令嬢の正体がばれました

40.6k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
新谷南は新谷家で二十年も育てられたのに、本当の娘が戻ってきた途端、あっさり家を追い出された。

デザイン部のディレクターの席? 本当の娘へ。
何千万円もの価値がある婚約話? 本当の娘へ。

会社中の人間が、彼女という「野良扱いの娘」がどう転げ落ちていくか、笑いものにしようと様子をうかがっていた。

そんなある日、世界限定二十台の高級バイクが会社の前に止まる。降りてきた不良っぽいイケメンが言った。

「妹、兄貴と一緒に帰るぞ」

新谷家の人間「……は?」

そのあとで彼らはようやく知ることになる。

彼女こそ、国内外の美術館の館長たちが面会待ちの列を作る「南先生」と呼ばれるアーティストであり、
新谷グループの全受賞特許の名義人であり、
さらに、伝説の「国家並みの資産を持つ」と噂される周防家の、本当の長女だということを。

大手財閥の若き当主は、封印していた婚約書を取り出し、薄く唇を吊り上げる。

「なるほど。俺の本当の婚約者は、君だったわけか」
俺様社長とその婚約者——すれ違う愛

俺様社長とその婚約者——すれ違う愛

17.3k 閲覧数 · 連載中 · 紗良益子
私のバレエダンサーとしてのキャリアが崖っぷちに立たされていたその日、婚約者は別の女と一緒に産婦人科で妊婦健診を受けていた。

問い詰めても、彼は何も答えようとしない。私は決意した——こんな馬鹿げた婚約など、破棄してしまおうと。

その後、私は一千万円を投じて、彼にそっくりな若い男を囲った。

やがて事態は思わぬ方向へと転がり始める。元婚約者との間には、何か重大な誤解が横たわっているようだった。けれど、それが運命のすれ違いなのか、それとも世界が仕組んだ悪戯なのか——私たちはもう、二度と交わることのない道を歩み始めていた。
離婚を告げたら、見知らぬ夫が泣き出した

離婚を告げたら、見知らぬ夫が泣き出した

24.7k 閲覧数 · 連載中 · 神楽坂奏
彼女は十九年間、家に養われた偽の令嬢だった。真の令嬢の身代わりとして、顔も見たことのない瀕死の男に嫁がされることになった。

孤児となった自分の人生は悲惨なものになると思っていたが、姓を変えてからの彼女は、一人で見事に人生を切り開いていった。

彼は海城の権力者の代表格で、手段を選ばず冷酷無情だと噂されていた。彼の傍にいる小さな萌え萌えした子供の生母については、海城最大の謎とされていた。

ある日、彼が病に倒れて昏睡状態の時、なんと女が彼の部屋に忍び込み、彼を襲ったのだ!

彼は全市を挙げて犯人を捜索したが、まさか「元凶」がずっと自分の目の前で跳ね回っていたとは思わなかった。しかも、息子の先生だったのだ!

事が発覚すると、彼は彼女を壁に押し付け、顎を掴んで言った。

「先生、随分と派手に遊んでくれたじゃないか」

彼女は封印されていた結婚証明書を取り出した。

「私があなたを襲ったのは、合法よ」

それ以来、彼は彼女を骨の髄まで愛し、天にも昇るほど溺愛した。

「彼女はなかなかやり手ね。家の若旦那の継母になるために、わざわざ幼稚園の先生になったのよ」

「名門の継母なんてそう簡単になれるものじゃないわ。一ヶ月後には家から追い出されるに違いないわ!」

翌日、彼女はSNSで親子鑑定書の写真をアップし、こう添えた。

【申し訳ございません、実の子でした!】
溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

235.8k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
原口家に取り違えられた本物のお嬢様・原田麻友は、ようやく本家の原田家に戻された。
──が、彼女は社交界に背を向け、「配信者」として自由気ままに活動を始める。
江城市の上流社会はこぞって彼女の失敗を待ち構えていた。
だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
「マスター、俺の命を救ってくれ!」──某財閥の若社長
「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」