彼氏の最後のキス

彼氏の最後のキス

渡り雨 · 完結 · 14.6k 文字

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紹介

深夜のパーティー。ボトルゲームで、瓶の口が彼氏の平野に向いた。彼は「王様ゲーム」の方を選んだ。

「今ここにいる誰かとキス!彼女以外でね」。司会のやつがニヤニヤしながら言う。

平野は一瞬も迷わずに、親友の刹那のところへ歩いて行って、みんなの前で七秒もキスしてみせた。ものすごい歓声で、部屋が揺れるくらい。

彼は私のところに戻ってくると、耳元でこう言った。「ヤキモチ焼くなよ。埋め合わせは、家でたっぷりしてやるから」

そして、私の番。私は「本当のこと」を選んだ。「まだ誰も知らない秘密を教えて」

周りの酔っ払いどもの顔を見渡して、私は落ち着き払って言った。

「私ね、人を殺したことがあるんだ」

チャプター 1

 瞬く間に、爆笑が部屋中を埋め尽くした。

「やっべ、演技うますぎだろ!」誰かが口笛を吹く。

 平野はソファに背を預け、ビールを煽りながら、まるでショーでも観戦しているかのような態度だ。

「俺の彼女、未来のアカデミー賞女優だからな!」

 彼は私が冗談を言っていると思っている。ここにいる全員がそうだ。パーティのBGMは鳴り止まず、次の酒を持ってこいと急かす声も聞こえる。

「じゃあ、こうしましょう。この秘密を『物語』として話してあげる」私は微笑んだ。

「聞きたい?」

「話せよ!」「聞かせろ!」野次馬たちが囃し立てる。彼らにとってはあくまで余興だ。

 私は平野を見つめ、語り始めた。

「うちは昔、農場をやってたの。裕福じゃなかったけど、悪くない暮らしだった。父は毎朝四時に起きて働きに出て、母はポーチで父の帰りを待っていた。八歳の時、父がトラクターの運転を教えてくれたわ。膝の上に乗せられて、足はペダルに届かなかったけど、ハンドルだけは握らせてくれた。夏の夕暮れにはレモネードを飲みながら、二人で日没を眺めたものよ」

「あの頃、父は言ったわ。お前が大きくなったら、この農場はお前のものだって。一番いい大学に入れて、農学を学ばせてやるって」

 平野は退屈そうにビールの空き缶を弄ぶ。

「それと殺人が何の関係があるんだよ? さっさと進めろって」

「それから、金融危機が起きた」一呼吸置く。

「銀行は潰れ、農場は破産。父は負けを取り戻そうとしてギャンブルに手を出したわ。そのうち薬物に溺れて、『これがあれば頭が冴えて、もっとマシな判断ができる』なんて言い出した」

「母は何もかも売り払った——農場の機材、祖母のネックレス、曾祖父が遺した土地の権利書まで。借金取りに土下座して待ってくれと頼み込んだわ。でも父はいつも、『次の勝負で全部取り返せる』って」

 かつての温もりと、その後の残酷さ。その対比はあまりに鮮烈で、目を焼くようだ。父が高い高いをしてくれた時のことを覚えている。私のことを『お姫様、しっかり捕まって』と言って肩車してくれた。あの笑い声も、星座を教えてくれた夜のことも、全部覚えている。

「とうとう父が消えて、私たちは夜逃げでもしたんだと思った」私は続ける。

「ある日、学校から帰ると——母はまだパートに出ていて不在だったけど——家に見知らぬ男たちが何人もいたの。彼らは高級なスーツを着ていて、あの荒れ果てた農場には全く不釣り合いだった」

 パーティの喧騒が、潮が引くように静まり返っていく。

「父は彼らにペコペコ頭を下げて、顔中に媚びへつらうような笑みを浮かべていた。そして興奮した様子で私に言ったわ。『やっと借金を返せるぞ、お前を大学に行かせてやれる』って。私はまだ子供だったから、父があんなに嬉しそうなのは久しぶりだ、としか思わなかった」

「父は私に一杯のドリンクを手渡して、お祝いだと言った」

 あの頃の私はなんて馬鹿だったんだろう。父が本当に活路を見つけたんだと信じていたなんて。私はそのフルーツジュースを受け取った。父の手が震えていたけれど、それは感動のせいだと思っていた。

 飲み干した瞬間、父の瞳に何かがよぎるのが見えた。

 それは愛でもなければ、罪悪感でもない。

 安堵だった。「やっと荷が下りた」という、安堵。

 目が覚めた時、私は自分の部屋のベッドに横たわっていた。体中が引き裂かれたように痛い。記憶は断片的で、シーツは取り換えられていたけれど血痕が残っていて……部屋には知らない男の匂いが充満していた。何が起きたのか思い出そうとしたけれど、頭の中にあるのはぼんやりとした影と、耳障りな男たちの下卑た笑い声だけ。

 這うようにして部屋を出た。

 階下から母の悲鳴が聞こえてきた。父と何か言い争っている。その声は、家ごと揺るがすかのように張り裂けんばかりだった。

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