私が死んだ後、彼らは狂ってしまった

私が死んだ後、彼らは狂ってしまった

大宮西幸 · 完結 · 17.5k 文字

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紹介

私が重症の喘息と診断されたその年、私は家族全員の最重要保護対象となった。

家中の花を咲かせる植物がすべて撤去され、母の愛していたジャスミンの花まで根こそぎ引き抜かれた。空気清浄機は24時間休むことなく稼働し、低いうなり声を響かせていた。

両親は交代で私を看病し、私に少しでも呼吸困難の兆候が現れることを恐れていた。

私の病状に配慮するため、両親はオックスフォード大学に合格したばかりのソフィーに入学延期を強要し、家に戻って手伝わせることまでした。

ソフィーの18歳の誕生日パーティーで、家の中は賑やかで興奮に満ちた雰囲気に包まれていた。

私はリビングの片隅に座り、部屋中の客人たちを眺めていると、胸が締め付けられるような感覚に襲われ、思わず口にした。

「お母さん、私……息ができない。自分の部屋に戻りたい」

母は満面の笑みを浮かべていたが、突然険しい表情に変わり、私の手から救急用吸入器をひったくった。

「そんなに苦しいなら、いっそ死んでしまいなさい!ここで騒がないで!」

チャプター 1

 重症の喘息と診断されたあの年、私は家族にとって「最優先の保護対象」となった。

 家の中から花の咲く植物はすべて撤去され、母が大切にしていたジャスミンさえも根こそぎ引き抜かれた。空気清浄機が二十四時間休むことなく稼働し、低い駆動音を響かせ続けている。

 両親は交代で私を看病し、呼吸困難の兆候を少しでも見逃さないよう注意深く見守っていた。

 私の病状を管理するために、彼らはオックスフォード大学に合格したばかりのソフィーに入学の延期を強要し、家に呼び戻したほどだ。

 ソフィーの十八歳の誕生日パーティー。家は興奮と熱気に包まれ、実に賑やかだった。

 私はリビングの片隅に座り、部屋を埋め尽くす客たちを眺めていた。不意に、胸が締め付けられるような感覚に襲われ、思わず声が漏れた。

「お母さん、私……息が、苦しいの。部屋に戻りたい」

 満面の笑みを浮かべていた母の表情が、突如として鬼のように歪んだ。彼女は私の手から吸入器を乱暴にひったくると、こう言い放った。

「そんなに苦しいなら、死ねばいいじゃない! ここで騒ぎ立てないで!」

「今日は姉さんの成人のお祝いなのよ。どうしても台無しにしたいわけ?」

「生きたくないんでしょう? なら、こんなもの必要ないじゃない! 病気を理由に私たちを困らせるのはもうやめて!」

 彼女は力任せに、吸入器を部屋の最も遠い隅へと投げつけた。何度も私の命を救ってくれたあの小さなボトルが壁に激突し、乾いた音を立てて転がる。

 母は忌々しげに私を突き飛ばすと、踵を返し、ソフィーの友人たちにシャンパンを振る舞い始めた。

 遠ざかった吸入器を見つめ、私は――つい、笑ってしまった。

 恐怖で背筋が凍り、寒気が全身を駆け巡った。

 吸入器がこれほど遠くに離れたのは、この四年間で初めてのことだ。

 長すぎた。

 この四年間、私の生活は吸入器なしでは成り立たなかった。

 食事はアレルギー対応食品だけ。

 寝る時は呼吸を確認できるようドアを開けっ放しにされ、入浴中さえ鍵をかけることは許されなかった。

 なのに今、その命綱を、母自身が隅の方に投げ捨てたのだ。

 客たちは談笑し、互いにグラスを合わせている。

 誰も、私を見ていない。

 私は空っぽの両手を見下ろした。

 あそこまで歩いて、部屋の隅にある吸入器を拾うべきだ。何事もなかったかのように。

 足をわずかに持ち上げかけ――そして、凍りついた。

 外から、ソフィーの鈴を振るような笑い声が聞こえる。友人たちと写真を撮る彼女の顔は、青春の輝きに満ちていた。

「病弱な妹」である私の世話をするために、彼女はオックスフォードを諦め、人生で最も美しい時間を棒に振った。

 今、彼女はようやく成人し、自分の居場所を見つけ、私という「荷物」から解放されようとしている。

 祝福に満ちたこの家を見て、私は不意に、自分がひどく汚らわしい存在に思えた。

 この完璧な絵画の中で、私だけが唯一の汚点なのだ。

 ここに立っているだけで、空気が薄まり、窒息しそうになる。

 母の言う通りだ。

 今日という日に、発作なんて起こすべきじゃなかった。

 ソフィーの晴れ舞台を台無しにしてはいけなかった。

 そもそも、私は生きていてはいけなかったのだ。

 私は吸入器から視線を外し、寝室へと背を向けた。

 ゆっくりと歩き出す。胸の締め付けは強まるばかりだが、誰一人として私に気づかない。

 皆が成人式の喜びに浸っている中、喘息持ちの病人の行方など、誰が気にするだろうか?

 額縁に入れられたオックスフォード大学の合格通知を思い出す。届いた時、ソフィーは泣いていた。嬉し涙ではない。行けないと分かっていたからだ。

「妹には世話が必要なの。一人にはしておけないわ」と、彼女は友人に説明していた。

 十八歳のソフィーは学業を諦め、いつ死ぬか分からない妹の世話をするために家に残った。

 深夜、ベランダでタバコを吸う父の背中も脳裏をよぎる。特殊な空気清浄機、定期検診、高価な薬。医療費は膨れ上がる一方だった。

「またローンを組むべきか?」と母が言った。

「家のローンもまだ残っているんだぞ」

 父の声は疲れ切っていた。

「エマの病気は、底なし沼だ」

 私はこの家の底なし沼であり、ソフィーの輝かしい未来を阻む障害物だったのだ。

 部屋に入り、そっとドアを閉める。

 外の喧騒が瞬時に遮断された。

 ベッドに寄りかかり、その縁に沿うようにしてズルズルと床へ滑り落ちる。

 酸素不足で、両手の震えが止まらない。

 それは死への恐怖ではなく、興奮によるものだった。

 ようやく束縛から逃れ、完全なる自由を手にするのだという、身体的な陶酔感。

 この三年間、私は何度も自由を渇望した。

 一人で出かけたい、友達と遊びたい、普通に呼吸がしたい。

 だが、見つかるたびにより厳重な監視と、ヒステリックな過保護がに晒された。

「エマ、外にどれだけアレルギーの原因があると思っているの? お母さんを人殺しにする気?」

「お前の命はお前だけのものじゃない、家族全員の希望なんだ! どうしてそんなにわがままなの!」

「エマ、お願いだから大人しくしていてくれ。父さんも母さんももう歳なんだ、エマが倒れるたびに寿命が縮む思いだよ……」

 今日、私はついに自由になれる。

 お母さん、あなたが私に死ねと言ったのよ。

 あなたが自ら、私の命綱を断ち切ったの。

 私は、言いつけを守ったいい子だったでしょう?

 気道が収縮を始める。見えないロープで首を絞め上げられているようだ。

「ヒュー……ッ、ヒュー……ッ!」

 猛烈な窒息感が喉を塞ぎ、胸の上に巨大な岩が乗っているかのように重い。

 部屋に荒い喘鳴が響く。

 目を開けた。

 視界が霞み始める。まるで磨りガラス越しに世界を見ているようだ。

 最高だ。

 酸素が失われるにつれ、体力も急速に奪われていく。

 私はカーペットの上に崩れ落ち、体を丸めた。

 寒い。

 これが、死の感覚か。

 紫色に変色していく指先を見つめ、私は無理やり口角を上げた。

 ソフィーの成人祝い――私の命を花火として打ち上げよう。

 両親の育ての恩――私の死をもって報いよう。

 これからはもう、交代で寝ずの番をする必要もない。常に心配しなくていい。高額な医療費を背負うことも、親戚の前で私の病気を恥じることもない。

 あなたたちは自由だ。

 そして私……私もついに、自由になれた。

 意識が徐々に遠のいていく。

 外からの笑い声が、遥か彼方の音のように聞こえる。

「ソフィーの素晴らしい未来と、夢の実現を祈って!」

「乾杯!」

 本当に、賑やかだ。

 最後に、母の笑い声が聞こえた気がした。

 それは彼女が長い間忘れていた、心からの笑い声だった。

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