うちの姪が可愛すぎて叔父八人が仕事になりません! ~三歳児なのに除霊までできるんですが~

うちの姪が可愛すぎて叔父八人が仕事になりません! ~三歳児なのに除霊までできるんですが~

美桜 · 連載中 · 304.7k 文字

818
トレンド
818
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

神崎家にやってきたのは、たった三歳の小さな女の子・紬。
その日から、名門一族の生活は大混乱!
冷酷な社長は仕事を放り出して姪の送迎係に。
無口な叔父はおもちゃ売り場で真剣にプレゼントを選び、
普段は誰にも頭を下げない叔父まで、紬に「抱っこ!」と言われれば即座にひざまずく。
八人の叔父たち、姪に甘すぎ問題。
しかも当の紬は、ただ可愛いだけの幼女ではなかった。
悪霊を見つければ退治し、トラブルに遭遇すれば解決し、家族を困らせる悪人には容赦なく真実を突きつける。
「おじさん、心配しないで! 紬がなんとかするね!」
……いや、三歳児に頼りすぎでは!?
溺愛が止まらない八人の叔父たちと、桁外れの福を呼ぶ幼女が巻き起こす、笑って癒やされるドタバタファミリーコメディ!

チャプター 1

臨安市――茜ヶ丘、水野家。

今日は小正月。町じゅうが提灯で彩られ、普段はひんやりと静まり返っている水野家にも、ほんの少しだけ人の気配が差し込んでいた。

そのとき。

辺りの静寂を切り裂くような悲鳴が響いた。

「きゃあ――!」

ドン、ドン、ドンッ――!

大きなお腹の女が、階段を転げ落ちてきた。

「――っ!」

一斉にどよめきが起き、皆が駆け寄る。

水野源が青ざめて叫ぶ。

「心愛! 大丈夫か!」

女の脚の間から、真っ赤な血が流れ出している。顔は紙のように白く、恐怖に引きつっていた。

「源兄さん……痛い……私たちの赤ちゃん……お願い、赤ちゃんを……!」

水野麻子も取り乱し、声を張り上げる。

「どういうこと!?」

水野心愛は涙をこぼしながら、階段の上を指さした。

皆が一斉に見上げると――最上段に、三歳半ほどの小さな女の子が立っていた。視線が集まった瞬間、女の子は抱えていたウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

水野篤志が怒鳴りつけた。

「お前が心愛を突き落としたのか!」

小さな子は唇を結び、震える声で言う。

「ちがう……わたしじゃない……」

水野心愛は泣きながらも、かばうように言った。

「ち、違います……お義父さん、紬のせいじゃありません……あの子はまだ小さくて、何も分からないんです……わざとじゃ……」

その一言が、紬の“罪”を確定させた。

水野源の目が氷のように冷える。問いただすことすらせず、言い放った。

「誰か! あいつを屋根裏部屋に閉じ込めろ。俺が戻ったら、きっちり躾け直してやる!」

心愛は慌ただしく病院へ運ばれていった。

紬は腕を掴まれ、二階へ引きずられる。片方の靴が途中で脱げ落ちたが、泣きも喚きもしない。小さな顔にあるのは、意地だけだった。

屋根裏部屋には灯りも暖房もない。真っ暗で、骨まで冷える。

窓が、ばたん、と鳴った。

まるで、いつ怪物が飛び込んできてもおかしくない――そんな音。

紬はウサギを抱きしめ、隅で小さく丸くなる。

寒い……。

でも、ほんとうに押してないのに。

どうして、誰も信じてくれないの。

外はまさに、春の陽気が続いたかと思えば、また冬の寒さがぶり返すという言葉どおりの吹雪だった。ひゅうひゅうと唸る風が窓の隙間から入り込み、何度も何度も、薄い身体に雪の冷たさを叩きつける。

やがて、一日と一夜が過ぎた。

その間、誰も紬を見に来ない。前日、心愛に罰として食事を抜かれていたことも、誰も知らない。意識はもう朦朧としていた。

水野篤志は言い放っていた。

――謝らないなら、出すな。

「ママ……」

紫色に凍えた唇が震える。紬は目を閉じ、かすれ声で呟いた。

「ママ……紬、わるくない……紬、あやまらない……」

ママは一年前に病気で死んだ。

ママがいなくなって、パパはすぐに“おばさん”を連れてきた。ほどなくして、そのおばさんのお腹には赤ちゃんができた。

そのおばさんには、顔が二つあった。

人がいるときは優しいのに、誰もいないときは悪魔みたいに変わる。

「ママ……」

紬はぬいぐるみのウサギの耳をぎゅっと掴み――そのまま、意識を手放した。

どれほど経ったのか。

バンッ、と扉が乱暴に開いた。

水野源が怒りに染まった顔で入ってくる。昏睡している紬を乱暴に掴み上げ、そのまま階段を引きずり下ろし――

屋敷の外、雪の上へ放り投げた。

紬は氷の刺激にびくりと震え、ようやく薄く目を開く。

「パパ……おなか、すいた……」

本能のままに漏れた言葉。

水野源は冷笑した。

「心愛の腹の中の弟を殺しておいて、よく腹が減ったなんて言えるな。俺、水野源が、どうしてお前みたいな薄情な娘を持ったんだ!」

凍えきった紬の瞳は、もう光を失っていた。言葉も出ない。

その姿が、水野源の癇に障る。

悪いことをしておいて、まだ意地を張る? 誰に見せつけてるつもりだ。

こんな小さな年で、心がこんなに腐ってるなんて――。

「子を教えぬは父の罪だ! 弟を殺せるなら、将来は人も殺すだろう。今日、叩き直さなきゃ俺は父親じゃない!」

そう言って周囲を見回し、隅に立てかけてあった箒を掴む。柄を踏み折り、二本指ほどの太さの棒にした。

バシンッ!

棒が紬の身体に叩きつけられ、紬は悲鳴を上げた。

「謝るのか、謝らないのか!」

「ちがう……ほんとに……ちがう……!」

唇を噛み、涙も出さずに耐える。小さな顔に、意地だけが張りついている。

水野源はさらに激昂した。

「お前じゃないなら、心愛が自分で転んだっていうのか! 妊娠六か月だぞ! 転んで何の得がある!」

病院での光景が脳裏をよぎる。

心愛は大出血し、医師は二度も危篤宣告を出した。それでも彼女は、命の瀬戸際でこう言ったのだ。

――紬を責めないで。あの子は小さくて、母親もいなくて可哀想で……弟が生まれたら愛されなくなるのが怖かっただけ。わざとじゃないの。

その“健気さ”が、逆に水野源の怒りを煽った。

「まだ言い訳するか! まだ言い訳するか!」

言葉のたびに、棒が落ちる。

バシン、バシン、バシン――。

殴りつける手が止まらない。いつの間にかポケットから携帯が落ちていることにも気づかず、紬が雪の上で崩れ落ちるまで叩き続けた。

ようやく手を止め、吐き捨てる。

「そこで跪いてろ。おばさんが退院するまで、立つな!」

水野源はネクタイを乱暴に引き、棒を投げ捨てて去っていった。

会社には大穴が空き、頭を下げて回っても誰にも会えず、半月も空回り。

そのうえ今日、心愛が階段から落ち、六か月の息子は流産――水野家が待ち望んだ跡取りも消えた。

立て続けの不幸で、頭は焼けつきそうだった。

だから、その全部を――小さな紬にぶつけた。

紬のウサギは、もうボロボロだった。

起き上がろうとしても、ぱたん、と雪に伏す。

――わたし、死んじゃうのかな。

死んだら、ママに会えるのかな。

そのとき、耳元で、ぼやけた声がした。

【紬ちゃん、早く斗真おじさんに電話しなさい!】

【斗真おじさんは神崎斗真。番号は080xxxxx……】

「……でんわ……」

紬は必死に目を開ける。雪の上に、黒い携帯が落ちていた。

生きたい。

その本能だけで、彼女は這うように近づく。

「080……」

震える指は言うことをきかない。どれほど時間がかかったのか分からない。

それでも、ようやく発信できた――。

同じ頃。

清原市の別荘。

神崎吉弥は朝から恒例の説教を始めていた。

「また一年だ。斗真、お前は今年こそ医長の試験に受かると言ったな!?」

神崎家の八兄弟は、また始まったとばかりに黙って聞き流していた。

神崎斗真は鼻を擦った。

すると吉弥は急に声色を変え、鋭く問う。

「――それと。四年探して、まだ妹は見つからんのか?」

空気が凍った。

八兄弟の顔色が変わり、誰も言葉を出せない。さっきまで右から左だった兄たちの目に、陰りが浮かぶ。

妹の神崎実里は幼い頃から急性前骨髄球性白血病と診断され、輸血、感染対策、骨髄移植……。

神崎家は二十年、掌の上の宝のように守ってきた。それでも病状は悪化し、記憶にまで影響が出始めていた。

四年前――突然、行方不明になった。

神崎斗真は県立がんセンターの主治医で、神崎実里の治療を最初から最後まで担当していた。

あの日、重症患者の救命に入った、たった一度の隙――実里は消えた。

それから四年。

自分を責める思いと後悔が、彼を蝕み続けた。天才と呼ばれる医学の才があっても、前へ進めない。

神崎家に娘は神崎実里ただ一人。

娘を失ってから、神崎聖子は寝込み、神崎吉弥の気性もどんどん荒くなった。

家族全員の心に、消えない重荷がのしかかっていた。息ができないほど重い。

長男・神崎雅志――神崎グループの社長は働き詰めで身体を壊し、毎日薬が欠かせない。

次男・神崎颯介――S航空のトップ機長は心理審査で不合格となり、四年も休職中。

三男は――

書斎は沈黙に沈んだ。

そのとき。

神崎斗真の携帯が、突然鳴った。

最新チャプター

おすすめ 😍

社長秘書のヒミツ恋情

社長秘書のヒミツ恋情

17.4k 閲覧数 · 連載中 · 元知り
一夜の過ちから、彼女は社長の秘密の恋人になった。
借金を返すため、彼と交わしたのは一通の契約書。
「体だけの関係。恋愛感情は一切なし」——そう決めたはずだったが…
真の令嬢は万の顔を持つ

真の令嬢は万の顔を持つ

105.7k 閲覧数 · 完結 · 相葉悠衣
吉崎家に「身代わり」として育てられた本物のお嬢様・吉崎直子は、偽物のお嬢様の盗作を暴いた後、逆に追い出されてしまう。周囲の人々は彼女の落ちぶれる姿を嘲笑おうと待ち構えていたが、彼女が数多くの顔を持つことなど誰も知らなかった――国際的ジュエリーデザイナー「Queen」、スポーツの天才プレイヤー「直様」、世界一の女性ハッカー「零(ゼロ)」、神医の後継者……。

傲慢な御曹司・羽島浩介が彼女を救うために骨折し、白石家のお爺さんが彼女を跡継ぎとして認め、林原財閥が彼女の本当の身分を明かした時――なんと、あの見下されていた「田舎者」こそが、真の商業帝国の後継者だったのだ!

そして、かつて高みから見下ろしていた偽物のお嬢様は、盗作しかできない道化に過ぎなかった。

全ての仮面が剥がれ落ちた時、全世界が彼女の足元で震撼する――。
竜王の花嫁

竜王の花嫁

5.5k 閲覧数 · 完結 · AT_Imagination
竜王の花嫁になるって、いったいどういう意味なのだろう?


偉大なるイグナス王国を形づくる七つの村では、毎年欠かさず「選定の儀」が執り行われていた。その儀で村の娘のひとりが選ばれ、恐るべき竜王の花嫁となるのだ。

なぜそんな儀を年ごとに続けるのか、誰にもわからない。これまで選ばれていった花嫁たちが、その後どうなったのかも――。

奴隷にされているのか?

竜の餌にされているのか?

それとも……竜王自身が、彼女たちを喰らっているのか?

それだって否定はできない。王は自分たちとは違う、人ではないのだという噂があるのだから。

それでも、その疑問は執念深く人々の胸を苛んだ。

いったい、花嫁を何に使っているのか――!?

だが、誰も王に問いただそうとはしなかった。逆らうなどという無謀が、どんな運命を呼び込むかが怖かったのだ。

もっとも、そんなことはベラドンナの知ったことではない。今年は彼女の村が花嫁を差し出す番だったが、自分が選ばれるはずがないと彼女は確信していた。

なぜかって?

もちろん、計画があるからだ。そして彼女は、その計画が自分を裏切るはずがないと信じ切っていた……いや、本当にそうだろうか。
億万長者のシンデレラ

億万長者のシンデレラ

47.3k 閲覧数 · 完結 · Laurie
「キスはしない」彼の声は冷たかった。
そうよね、これはただのビジネスだもの……
でも、彼の触れる手は温かくて……誘惑的で……
「処女なのか?」突然、彼は私を見つめた……

*****

エマ・ウェルズ。卒業を控えた女子大生。継母のジェーンと義姉のアンナから虐待を受け続けてきた彼女の人生で、唯一の希望は王子様のような恋人マシュー・デイビッド。世界一幸せな女性にすると約束してくれた人。

しかし、彼女の世界は完全に崩れ去った。継母が老人から結納金として5万ドルを受け取り、彼女を嫁がせることに同意したのだ。さらに追い打ちをかけるように、愛する恋人が親友のビビアン・ストーンと浮気をしていたことを知る。

土砂降りの雨の中、通りを歩きながら、彼女は絶望の淵に立たされていた……

拳を握りしめ、決意した。売られる運命なら、自分で売り手になってやる。

豪華な車の前に飛び出し、立ち止まる。自分の処女は一体いくらの価値があるのだろう……

*****

デイリー更新
鬼畜社長が離婚後に豹変!?甘えん坊な元夫の執着愛

鬼畜社長が離婚後に豹変!?甘えん坊な元夫の執着愛

68.6k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
篠崎アエミが最も後悔したことは、すべてを捨てて榎田神也と秘密裏に結婚し、卑屈に彼の傍らにいて、自分自身を失ってしまったことだった。

初恋が帰国し、彼女は彼を要らないと言った。

離婚後、彼女は人生の頂点に立った。

トップレベルのデザイナー無憂は彼女だった。
トップクラスの名門が失った令嬢も彼女だった。
手のひらを返せば雲を作り、手のひらを返せば雨を降らせる株の神も彼女だった。
再婚後、クズ元夫が私に土下座した

再婚後、クズ元夫が私に土下座した

51.5k 閲覧数 · 連載中 · ニワハナ
長きにわたって、彼女は半身不随となった夫を献身的に看病し、時に自らの身を危険に晒して治験薬の投与にも協力した。自らの健康を蝕まれながら、夫を死の淵から引き戻したのだ。

しかし、夫がついに自力で立ち上がれるほど回復したその日、彼は初恋の女性を腕に抱き、こう言い放った。
「これからの人生、俺は彼女と、彼女のお腹の子を守っていく」

打ちのめされた彼女が離婚を切り出すと、夫は冷徹に彼女の口座をすべて凍結し、無一文のまま家から追い出し、嘲笑うように吐き捨てた。
「俺がいなければ、お前には何の価値もない」

彼女が妊娠検査薬をそっと隠し持ち、すべてに別れを告げて永遠に立ち去るまで、夫が慌てふためくことはなかった——。
元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる

元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる

11.5k 閲覧数 · 連載中 · 南宮
元恋人に裏切られ、冷たい玄関先で殺意を向けられたあの日。
私を見捨てた男ではなく、彼が一番恐れていた「危険な叔父」が、暗闇から現れた。
その腕の中だけが、この二年で初めて私を孤独から救い出した。
「次、誰かが君を傷つけたら、こうするんだ」 渡された銃の重みが、私の心に深く刻まれる。
私は逃げ出したかったはずなのに、いま、彼の甘い視線から離れられずにいる。 救いなどいらない。
ただ、この危険な男の「所有物」になりたい。
人生を謳歌する

人生を謳歌する

2.7k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
大学生である私は、兄の家に住んでいた。兄嫁は魅力的で優しく、彼女のすべてが私が理想とする女性像そのものだった。青春真っ只中の私は、彼女と親密になることを夢見ることが多かった。そのような考えが間違っていることは十分にわかっていたので、できるだけ彼女と接しないようにしていた。しかし、驚いたことに、兄が勃起不全であることを知り、彼らは長い間夫婦生活を送っていないことがわかった。彼女は子供を強く望んでいて、兄が彼女を妊娠させることができないために、何度も涙を流していた。ある夜、彼女は私の部屋に入ってきて、「私に子供を授かってくれないか?」と尋ねた。パニックと興奮の間で、私は彼女の目を見ることができなかった。私はどうすればよかったのだろうか?
追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです

追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです

141.6k 閲覧数 · 連載中 · 星埜雪奈
家族に捨てられ、私はようやく偽りの温もりを切り捨てた。
けれど、私の本質を隠し通すことは誰にもできない。
隠された私の正体は、この国で最も裕福な一族の継承者。
かつての家族が私を見失っている間に、私は全ての支配者となり、この街の頂点に君臨する男の視線を独占する。
彼が私に捧げる愛は、ただの寵愛ではない――世界を敵に回してでも守り抜く、狂おしいまでの執着だ。
セカンドチャンス 億万長者のパパ

セカンドチャンス 億万長者のパパ

4.1k 閲覧数 · 完結 · Olivia
若いころの私は、醜いと見なされていた。ところが思いがけず、端正な顔立ちで金持ちの若い男と同じベッドにいる自分がいて、私たちは子どもまで授かった。

それから何年も経ち、私は息をのむほどの映画スターへと変貌を遂げた。そして再び、あの裕福な青年と道が交わった。だが――胸が沈んだ。彼は私だと、気づきもしなかった……。
不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

5.1m 閲覧数 · 完結 · 七海
初恋から結婚まで、片時も離れなかった私たち。
しかし結婚7年目、夫は秘書との不倫に溺れた。

私の誕生日に愛人と旅行に行き、結婚記念日にはあろうことか、私たちの寝室で彼女を抱いた夫。
心が壊れた私は、彼を騙して離婚届にサインをさせた。

「どうせ俺から離れられないだろう」
そう高をくくっていた夫の顔に、受理された離婚届を叩きつける。

「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」

初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。

「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
「良き元カレというのは、死人のように静かなものだよ?」

「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。

「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」
夫と息子に捨てられた私は、幸福という名の檻を抜け出すことにした

夫と息子に捨てられた私は、幸福という名の檻を抜け出すことにした

49.2k 閲覧数 · 連載中 · 白石 茉鈴​
嫁ぐ前は、夢見ていた。幸せな家庭を築けると信じていた。
しかし現実の結婚生活は、私を泥のような惨めな境遇へと引きずり落とした。
夫と息子にとって、私は愛人の飼い犬にさえ劣る存在でしかなかったのだ。
離婚届に淡々と署名する二人の姿を前に、私の心は不思議と静まり返った。
「そう、それでいいわ」
最後に乾いた笑みを浮かべ、私は決別を告げる。
今日で、私たちは正真正銘の赤の他人。