紹介
私が妊娠を確信するたび、義姉の綾子(あやこ)は屋敷の裏手にあるあの教会へと入っていく。
そして、義父母が私を無理やり病院へ引きずって行き、健康そのものだった赤ん坊を堕ろさせるのだ。
三度目の流産の後の深夜、私は衰弱した体を引きずり、彼女の後をつけて教会へ入った。
あの扉を押し開けた瞬間、全身の血が凍りついた。
その時、私はようやく理解した。なぜ、私の三人の子供たちが死ななければならなかったのかを。
チャプター 1
夫と結婚して三年。二度身籠ったが、どの子もこの腕に抱くことは叶わなかった。
その理由はただ一つ。私が妊娠するたび、義姉さんが屋敷の裏手にあるあの礼拝堂へと足を運ぶからだ。
義姉の綾子は名家の出身で、かつては極めて優秀な産婦人科医だった。義兄の颯斗と結婚して十三年、誰の目にもおしどり夫婦と映っていたが、子宝にだけは恵まれなかった。私が江部家に嫁いでからは、義姉さんは病院を辞め、実の妹のように私を可愛がってくれた。
初めて妊娠がわかった時、私は狂喜乱舞し、逸る気持ちを抑えきれずに検査結果を義姉さんに見せた。
用紙を受け取った彼女の表情が、見る見るうちに強張っていく。
詳しい事情を聞く間もなく、彼女はきびすを返して礼拝堂へと向かった。あの時の私は、私のために祈りを捧げてくれるのだと、無邪気にもそう信じ込んでいた。
だが、義姉さんが礼拝堂から戻るや否や、義父母は有無を言わさず私を病院へ引きずっていき、無理やり堕胎させたのだ。何の説明もなしに、だ。
二度目の妊娠の時、私は学習した。検査結果を義姉さんには見せなかったのだ――不妊に悩む彼女を刺激してしまったのだと思ったから。私は医師の診断書を提示し、胎児の発育が順調であることを示して、この子だけは産ませてほしいと義父母に懇願した。
だが、義姉さんがまたあの礼拝堂へ入っていく姿を目にした途端、義父母の態度は前回と同じものになった――その日のうちに病院へ行け、と。
やはり、何の説明も与えられなかった。
義兄さん一家を贔屓して、次男のほうに先に跡継ぎができるのを嫌がっているのかと思ったこともある。あるいは、長年不妊に苦しむ義姉さんの心情を慮ってのことだとも。
そして今、私は三度目の命を宿している。
今回は万全を期した。事前に徹底的な検査を受け、羊水検査でも胎児は至って健康。DNA鑑定によって、夫である政弘の実子であることも証明済みだ。
念には念を入れ、義姉さんには海外旅行へ行ってもらうよう手配もした。彼女さえいなければ、義父母も口実を失うはずだと踏んだのだ。
しかし、希望を抱いて待っていた私の目の前で、義母は携帯を取り出し、再生ボタンを押した。
画面に映し出されたのは、屋敷の礼拝堂で懺悔の祈りを捧げる義姉さんの背中だった。彼女はこっそりと戻ってきていたのだ。
「この子は残せん。堕とすしかない」
義父の声は冷徹で、鉄のように固かった。
義母が無表情に言葉を継ぐ。
「今日中に処理しなさい。誰か、若奥様を病院へ」
義父母は私の両腕を左右から抱え込み、力ずくで部屋の外へと引きずり出そうとする。
私は必死に抵抗し、ドア枠にしがみついて指を食い込ませた。
「どうしてですか!」
私は半狂乱で叫んだ。
「赤ちゃんは健康なんです、DNA鑑定だって江部家の血筋だと証明してるじゃないですか! 報告書にもそう書いてあるのに! どうして三度も私に堕ろせなんて言うの? 義姉さんが気に入らないから? ただそれだけのために?」
私の問いかけに対する答えは沈黙と、さらに強まる腕の力だけだった。
義父がドア枠を掴む私の指を一本ずつ剥がし、冷たく言い放つ。
「堕ろせと言ったら堕ろすんだ。御託はいい」
義母が使用人たちに目配せする。
「何を突っ立っているの? 早く連れてお行き」
涙で視界が歪む。絶望が潮のように押し寄せ、私を飲み込んでいく。
この三番目の子も殺される運命からは逃れられない――そう観念しかけたその時、背後から大理石の床を叩く革靴の音が響いた。
「……一体、何事だ?」
それは、夫の兄である颯斗の声だった。
弾かれたように振り返ると、彼は玄関ホールの陰影の中に立ち、眉間に深い皺を刻んでいた。その姿が、絶望の淵に沈んでいた私には、一筋の希望の光に見えた。
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かつての家族が私を見失っている間に、私は全ての支配者となり、この街の頂点に君臨する男の視線を独占する。
彼が私に捧げる愛は、ただの寵愛ではない――世界を敵に回してでも守り抜く、狂おしいまでの執着だ。
地獄から帰った私を、頂点の男が甘やかすなんて聞いてない
十八年間、空気のように扱われ、誘拐事件の際にも迷わず切り捨てられた私。
「強さ」という名の言い訳で死の淵に追いやられた私は、地獄の果てで生き延びた。
そして今、全国民が見守る超人気リアリティショーの舞台に、私は「かつての復讐者」として舞い戻る。
家族が偽りの善人面を振りまく中、彼らの仮面を一枚ずつ剥ぎ取っていく最高のショウタイム。
そんな私を面白がり、盤面をひっくり返す男がいた。冷徹なるF1チャンピオン。彼だけは、私の冷酷な正義を肯定し、その権力で私を囲い込む。
さあ、復讐劇の始まりよ。私を「可哀想な犠牲者」だと思っていた報い、その身に刻ませてあげる。
全能令嬢の帰還、家族が倒産?
父は冤罪で獄中にあり、母は病に伏せっている。
六人の兄たちも、ある者は身体に障がいを負い、ある者は無気力に沈んでいた。
そんな折、家に潜り込んでいた偽令嬢は状況を見るや否や一家を見捨てて姿を消し、さらに屋敷までも奪い取ろうとしていた。
世間は夏川家を「落ち目の負け犬」と嘲笑い、皆がこぞって踏みにじる。
紅蓮が静かに一声を発すれば、暗部より無数の異能の士たちが姿を現し、形勢は一瞬にして逆転する。
父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。
しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
「夏川紅蓮は地味で野暮ったい田舎者だ」と。
何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。
そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。
「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」
紅蓮が流し目をひとつ送る。
「婚約、破棄しなくていいの?」
「しない」
彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる
ところが、その兄が乗ってきたのはトラクターだった。
ガタガタと揺れるトラクターがたどり着いた先は、まるで古城のような大邸宅。そこで私は思い知る。本当の家族のもとに引き取られた私は、貧しくなるどころか、前よりずっと裕福になっていたのだ。
……だが、ちょっと待ってほしい。なぜ私には突然、婚約者というものが存在するのか。しかもその相手は、私の大学の教授だという。誰か、説明してくれないだろうか。













